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逢瀬は、プラットホームで。  作者: 椎名美雪
第四章
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ただ、会いたい

 退職を迫られ辞めていった、かつての上司。馬渕部長は元々は技術部の部長をしていた。

 しかも、井沢さんが入社してすぐの配属先も技術部だったというから、ちょっと驚き。

 だから、他の営業よりも、自社製品に詳しかったのか。機械に詳しい男性って素敵……という私の気持ちは置いておき、新体制になった営業本部のピリピリ感には、いつまでも慣れなかった。


 部課長が外出した途端、みんなの肩の力が抜けていくのが解る。


「はーあ……」


 という、何処からともない大きな溜息が漏れてくる。みんな、ほぼ同時くらいについていただろう、溜息。

 仕事に緊張感は大事だけど、これほどまでに締め付けるのも、新米ながら“どうなんだろう?”と、感じていた。


 あ。

 あとは、矢口さんがいる時も気が抜けない。何故って、課長に告げ口されるから。ベテランの営業なのに、ものすごく面倒臭い人だった。


 そして、以前のように、社内で井沢さんと話せる時間もタイミングもなくなり、その意味でも私の溜息は止まらない。


 仕事が終わってからも、彼は相変わらず忙しかったし、夜に掛かってきていた電話も、最近は減ってきていた。


 ホワイトボードに、井沢さんが出先と帰社予定時間を書いている。


(出掛けちゃうのか。しかも18時って……)


 今見送ったら、もう明日まで会えない。というか、見れない。

 どうにも寂しくて、「行ってきます」と言って出かける彼の後を、トイレに立つフリをして追いかけた。


 営業は、車で出掛けるときは、受付に車の鍵を取りにいくから、すぐには出かけない。

 営業車を停めている駐車場まで下りて、私は辺りを見回した。


(あれ? いない?)


 いないはずは、ないんだけど……。

 受付の中にいるのかもと、覗いてみようと思ったら、受付のガラス窓に反射して、私の背後に人影が見えた。

 小窓の位置が低いせいで、顔まで映りきらない。


「なにやってんだよ。……すいません、車の鍵ください」


 笑いながら、私に被さるようにして、受付の中に声をかける。慌てて逃げる私を、笑っている井沢さん。


 そういえば、こんな風に笑っているのを見るのも久しぶり。


「どうした? 用があったんじゃないのか?」


 鍵を手にして、駐車場へ戻りながら声をかけてくる。

 何も言葉を用意していなかったことに気付いたけど、以前のような私ではないから、思ったことを口にしていた。


「ううん。用はないんだけどね。追いかけてきてみた」

「なんだ、ソレ」


 言いながら、車の後部席にカバンやカタログを置いて、ドアを閉める。


「乗るか? ドライブ行く?」


 もちろん、これは彼の“冗談”。仕事を放って出れるわけがないからね。

 冗談に冗談で返して、ふざけ合うけれど、ここは会社の敷地。人の目もあるわけで、私は早々に切り上げる。


「じゃ、気を付けてね。いってらっしゃい」


 私は、軽く手を振ってみせた。


「あっ、オイ!」


 呼び止めると同時に、少し周囲を窺う。


「なるべく早く戻るから、いつもの所で待っていられるか?」

「ん? 駅?」

「違う。マック!」


 ムキになっているのがおかしくて、つい笑いそうになる。


「時間わからないのに、駅で待つなよ。マックだからな」


 言い聞かせるように強く言われ、私も素直に頷いてしまう。


(久しぶりに、外で会える!)


 車で出ていく井沢さんを見送り、午後の仕事を張り切る私だった。

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