時間よ、止まれ
誕生日プレゼントに買ってもらった、指輪を着けての初出社。
傍からすれば、ごく普通のシンプルなファッションリングだけど、私としては結構恥ずかしかった。
普段から、手持ちのリング付け替えたりして、毎日楽しんでいた。自分で買ったり、親に買ってもらったりして、いくつかは持っているけど、これは外せなくなりそうで。
出社するや否や、お約束の友達集団が声を掛けてきた。
「なに買ってもらったのー?」
いつものように冷やかされて、急に井沢さんを思い出した。
*
店を出た後のこと。
「またアイツらに、何か言われるんだろうな、俺」
苦笑いを浮かべていたっけ。
確かに、男性には理解出来ないんだろうな。女性はお喋りだからね。
「うん。黙っていたほうがいい、よね?」
「どうせ、言ってあるんだろ? 今日のこと。俺と会うとか、どうとか」
言い当てられて、ギクリ。私の行動パターンは、読まれていた。
「あはは。うん、そうなんだけどね……」
「それじゃ、話さないわけにいかないだろ」
「――だよね。ゴメンナサイ」
私まで苦笑い。
謝るしかなく、それ以上は返せない。
「でもまあ、アイツらになら、いいか」
そう言ってくれた井沢さん。私の友達を、悪くは思っていないという事だよね?
そのことが、とても嬉しかった。
――と、こんなやり取りがあり、例のごとく、掻い摘んで報告をする。
私が一番驚いていることだけど、友達も揃って驚いていた。
「へーー……」
長い溜息のような、声のような。みんなが私の右手に注目している。
「井沢さんて、不思議だよね。いきなり指輪にいく? 普通」
「一気に飛びすぎ」
褒めているのか、貶しているのか、散々なことを言われてから、「で、なんで右手なのよ。左手じゃないの?」当然というように言って来られて、困ってしまった。
右で良いと言っても、納得しない友達と、ワイワイ話した。
井沢さんも覚悟はしていたようだけど、“聞いたわよ~”みたいな眼差しと口調で、「おはようございまーす!」なんて、友達に声を掛けられると、笑って頷くしかなくて、私も一緒に笑ってしまう。
……この頃が、一番楽しかった。
年が明けてから、井沢さんと私を取り巻く環境が、少しずつ変わり始めた。
砂時計の砂が落ちるように、静かに、時間は確実に、進んでいく。




