クリスマスの夕暮れ
夕暮れ間近の、十六時過ぎ。
イブが明けると、もうクリスマスは終わったような雰囲気になる。本当は、今日が本番なんでしょ? と思うけど、騒ぎたいだけの日本人には、どっちでもいいのかな。
会社が休みの、土曜日。
改札を出ると、いつもとは反対側の階段を上がった。
会社とは逆ということもあり、普段は線路の向こう――今立っている場所に来ることは、あまりない。
それにしても、人出がすごい!
(こんなに人がいて、見つけられるかな?)
という心配は、杞憂に終わる。
着いてから、井沢さんを待つことなく見つけられた。というか、私を見つけてくれた。
「すごい人だな!」
彼の第一声がソレ。
目を白黒させて、人溜まりの中にいた私を、後ろに引っ張っていく。場所を少し移動するだけでも、圧迫感が減って楽になる。
「ホントだね。見つからなかったら、どうしようかと思った」
無事に会えてホッとして、ようやく笑顔になれた。……と、それも束の間。彼に時間がないことを思い出して、念を押される前に、私から切り出した。
「時間ないんだよね? 早く選ぶから、少しだけ付き合ってね」
井沢さんに言ったのには、私なりの考えがあってのこと。
こういう場合、相手から理解していることを示されたほうが、安心するから。別れるときも、違和感なく「それじゃ!」と、帰っていける。
それに、クリスマスに好きな人と会えたという事実は変わらないし、誕生日とクリスマスのプレゼントを、一緒に貰えたような気分になれた。
昨日、井沢さんに欲しい物を聞かれてから、考えに考えたけど、実はあまり浮かんでこない。
やっぱり、好きな人から貰うものは、なるべく身につけていたいし。そう思ったら、急に頭に浮かんだ。
(そうだ! バレッタなんていいかも)
髪を纏めるためのアクセサリーを、プレゼントしてもらおうかと思った。
これなら、毎日とはいかなくても、いつも身に着けていられるし。それになにより、値段も高くない。これなら安心して、欲しいと言える!
私は簡単に、こんなのが欲しいと、自分の髪に着けているバレッタを指さして、井沢さんに伝えた。
うんうん、と聞いていた彼を連れて、雑貨屋を見ていく。
バレッタ、あるにはあるけど……。う~ん。そんなに気に入るのが、ないんだよね。
仕方ないから、どれかを妥協して――いくつかのバレッタを手にして、鏡を見ながら、髪に当てて見てみる。
「なあ。髪留めより、あんなのはどうだ?」
ずっと黙っていた井沢さんが、声を掛けてくる。
女物のヘアアクセサリーなんて、興味すらないだろう彼が、珍しい。
しかし、その彼の視線は店内にない。
「どうしたの? どれ?」
私の位置からは、井沢さんの視線の先が見えない。
ヒョイと顔を出して、彼の指している方、通りを挟んだ斜め前の、さらに数軒先に目を向けた。
「あれ」
私の視線が向いたのを確認した井沢さんが、もう一度言う。
離れているから、商品は見えないけれど、看板や店名で何を扱っているのかが判る。
「……あれって、アレ?」
「そう。あれ」
「え……! ダメだよ」
「なんで?」
「なんでって、高いでしょう!?」
手を横に振り、無理を強調する私を残して、井沢さんは、歩いて行ってしまう。
どこまでもマイペースな人。私も人のこと言えないけど、この人はその上を行くマイペース……。
こうなっては仕方がない。私も雑貨屋を出て、彼が見ているディスプレイを覗き込む。
「ほら、こんなの。似合うんじゃないか?」
優しい笑みを浮かべる、井沢さん。
素直に “良いね!” とも言えず、どう返したら良いのか判らず。
照明を受けてキラキラと輝く、ジュエリーを前に戸惑っていた。




