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逢瀬は、プラットホームで。  作者: 椎名美雪
第三章
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クリスマスの夕暮れ

 夕暮れ間近の、十六時過ぎ。

 イブが明けると、もうクリスマスは終わったような雰囲気になる。本当は、今日が本番なんでしょ? と思うけど、騒ぎたいだけの日本人には、どっちでもいいのかな。


 会社が休みの、土曜日。

 改札を出ると、いつもとは反対側の階段を上がった。


 会社とは逆ということもあり、普段は線路の向こう――今立っている場所に来ることは、あまりない。


 それにしても、人出がすごい!


(こんなに人がいて、見つけられるかな?)


 という心配は、杞憂に終わる。

 着いてから、井沢さんを待つことなく見つけられた。というか、私を見つけてくれた。


「すごい人だな!」


 彼の第一声がソレ。

 目を白黒させて、人溜まりの中にいた私を、後ろに引っ張っていく。場所を少し移動するだけでも、圧迫感が減って楽になる。


「ホントだね。見つからなかったら、どうしようかと思った」


 無事に会えてホッとして、ようやく笑顔になれた。……と、それも束の間。彼に時間がないことを思い出して、念を押される前に、私から切り出した。


「時間ないんだよね? 早く選ぶから、少しだけ付き合ってね」


 井沢さんに言ったのには、私なりの考えがあってのこと。

 こういう場合、相手から理解していることを示されたほうが、安心するから。別れるときも、違和感なく「それじゃ!」と、帰っていける。


 それに、クリスマスに好きな人と会えたという事実は変わらないし、誕生日とクリスマスのプレゼントを、一緒に貰えたような気分になれた。


 昨日、井沢さんに欲しい物を聞かれてから、考えに考えたけど、実はあまり浮かんでこない。

 やっぱり、好きな人から貰うものは、なるべく身につけていたいし。そう思ったら、急に頭に浮かんだ。


(そうだ! バレッタなんていいかも)


 髪を纏めるためのアクセサリーを、プレゼントしてもらおうかと思った。

 これなら、毎日とはいかなくても、いつも身に着けていられるし。それになにより、値段も高くない。これなら安心して、欲しいと言える!


 私は簡単に、こんなのが欲しいと、自分の髪に着けているバレッタを指さして、井沢さんに伝えた。

 うんうん、と聞いていた彼を連れて、雑貨屋を見ていく。


 バレッタ、あるにはあるけど……。う~ん。そんなに気に入るのが、ないんだよね。

 仕方ないから、どれかを妥協して――いくつかのバレッタを手にして、鏡を見ながら、髪に当てて見てみる。


「なあ。髪留めより、あんなのはどうだ?」


 ずっと黙っていた井沢さんが、声を掛けてくる。

 女物のヘアアクセサリーなんて、興味すらないだろう彼が、珍しい。


 しかし、その彼の視線は店内にない。


「どうしたの? どれ?」


 私の位置からは、井沢さんの視線の先が見えない。

 ヒョイと顔を出して、彼の指している方、通りを挟んだ斜め前の、さらに数軒先に目を向けた。


「あれ」


 私の視線が向いたのを確認した井沢さんが、もう一度言う。

 離れているから、商品は見えないけれど、看板や店名で何を扱っているのかが判る。


「……あれって、アレ?」

「そう。あれ」

「え……! ダメだよ」

「なんで?」

「なんでって、高いでしょう!?」


 手を横に振り、無理を強調する私を残して、井沢さんは、歩いて行ってしまう。

 どこまでもマイペースな人。私も人のこと言えないけど、この人はその上を行くマイペース……。


 こうなっては仕方がない。私も雑貨屋を出て、彼が見ているディスプレイを覗き込む。


「ほら、こんなの。似合うんじゃないか?」


 優しい笑みを浮かべる、井沢さん。

 素直に “良いね!” とも言えず、どう返したら良いのか判らず。


 照明を受けてキラキラと輝く、ジュエリーを前に戸惑っていた。

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