自然体で
忘年会のときのこと。
あのことは、誰にも話したことがない。
私が話すことによって、また井沢さんが友達にアレコレと言われる、というかイジられると困ってしまうから。冷やかすとも言うけれど。
それなりに、お酒も入っていたし、酔うとスキンシップしたがる人もいるから、そのせいかもしれないと思って。……という例えは、私の父親だったりするけど。
あまり意識をしないようにしているつもりでも、あの忘年会でテンションを上げた友達からは“押せ押せ!” な感じで。
「あっち(教会)には、もう行ってないんでしょ? だったら今更、利用するとかは違う気がするんだけどなぁ」
そんな感想を言われてしまうと、“それもそうなのかな?”とも、思えてくる。いつも私の恋の話ばかりではなかったけど、これほどまでに哀れ――というか、判りづらい恋も珍しいと、よくネタにされていた。
これまでは、女友達ばかりだった会話に、男性目線がプラス。信用出来る同期の男子と、淳ちゃんの彼氏も加わった。
これが不思議なもので、視点を変えると、妙に納得が出来てしまう。
『どう考えても、嫌がられてはいないし、むしろ可愛がられているから、もっと自然体で接していて良いと思うよ』
自然体かぁ。そんな発想、無かった。
長い間、彼のことを“諦める”と“諦めない”でフラフラしていたけれど、急に目の前が開けたというか、新鮮な気持ちがした。
(もうちょっと、自分に正直になってもいいのかな)
ほんの少し、心にゆとりが生まれた私は、その流れで、ある行動に出た。
定時を過ぎた、営業のフロア。
井沢さんは、少し前に外出先から戻って、事務仕事を片付けている。目の前の席の佐藤さんは、まだ戻ってきていないし、黒田さんと由真ちゃんは、さっき帰ったばかり。
実は、ゆっくりと仕事をしながら、井沢さんが一人になるのを待っていた。
手早く片付けを済ませると、周囲に挨拶をして、彼の横を通る。
「お疲れさん」
井沢さんが、顔を上げた。うんうん、このタイミングだよね。
「ねえ。まだ帰らないの?」
「うーん、もう少しかかるかな。どうかしたか?」
「今日も、行くんだよね? だったら、一緒に帰ってもいい?」
前触れもなく言われて、面食らっているのが判る。
「えっ……あ、でも……ドコに――」
少々面食らった様子。“何処で待っているのか” と、聞きたいらしい。
「うん。いつものところで、待ってるね」
それだけを言って、私はフロアを出た。
(いつものトコロって、ふたつしかないけど。解るかな?)
ちょっと心配になるけど、それはそれで……明日謝ればいい?
嘘みたいに、色々なことが吹っ切れた自分だった。




