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逢瀬は、プラットホームで。  作者: 椎名美雪
第三章
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友達に隠れて

 畳についた手を、井沢さんに取られた。暖かな温もりが、直に伝わってくる。


「いいから、ここにいろ」


 ボソッと呟いた声は、友達には届かない。

 井沢さんと私の間の、壁ギリギリのところで手が重なっていた。


 腕まで触れるくらいの近さにドキドキしつつも、恋愛スキルが足りない私は、


(こんな少女マンガみたいなこと、ホントにあるんだ……)


 半ば感心して思っていた。



 何が起きたのかを理解するまで、時間が必要だったから、きっと、私の頭の中は、ショートしてしまっていた。


 それにしては――からかうにしては、時間が長い気がした。

 特に話すこともなく、ポツポツと途切れがちな会話。この後、忘年会の後は、教会に行くんだって。


 その前に、“こんなに飲んで平気なの?”と思うけど、外は寒いし、歩いていれば目が覚めるのかな。


 眠そうにしていた井沢さんは、壁に頭を付けて少し目を閉じると、何気なく呟いていた。


「落ち着くなー……」


 綺麗な横顔。カッコイイな、と改めて思う。


 重ねている手は、動かない。大きな手から、温かさだけが伝わってくる。

 退院したばかりなのに、まだ忙しさに限界が見えない、教団の活動。私が考えている以上に、疲れているんだろうな。


 私としても、もう少しこのままでいたいけど、それは無理。


「……あの、井沢さん」

「ん?」

「そろそろ、手……放してよ」

「ダメ。放したら、逃げるんだろ?」


 重ねていただけの手に、少し力が入る。井沢さんは、私の左手を握った。


「そういう事じゃなくて」


 そろそろお開きみたい、と続けようと思ったら、突然、まっちゃんが声を掛けてきた。


 友達二人とも、私達の手が触れていることには気づかない。


「なによー。二人とも静かじゃん」


 覗き込むような、まっちゃんと木村ちゃんの視線に、井沢さんは、そっと手を放して、身体を起こした。

 木村ちゃんも、まっちゃんに乗っかるようにして、


「ねーねー、井沢さん。椎名ちゃん、オススメだよ! 彼女にどうですか?」


 結構、無茶なことを振ってくる木村ちゃん……。

 そうだよ。前にも何度かあったね、こんなことが。


 私の友達に、長い間、散々とイジられているせいか、いつものように笑みだけを返している。


「まーた、ノーコメントだってさー」


“つまらない” といった声を出した、まっちゃん。


「もうさー、アンタもやめなよ。井沢さんなんてー」


 軽くキレたように、私に訴える。

 まっちゃんの言葉は、私の気持ちはまだ井沢さんにあると言っているようなものだ。こんなにザックバランな会話、本人の前で言う?


 私も困ってしまって、「ほんとにねー、そうだねー。あははは」隣りに井沢さんがいるのに、“どうにでもなれ!”な発言。


(どうして、いつもこんなことに――……)


 良い返事が浮かばず、誤魔化すようにグラスに手を伸ばした。

 少し飲んでは足されたビールを、チビチビと飲む。もう、冷たさなんてなくて、温くなったビールは更に美味しくない。


 まだビールが残るグラスを、テーブルに戻した途端、左から奪われてしまった。

 私の反応よりも、まっちゃんたちの方が素早い。


「え!?」

「うそ――!!」


 私の飲みかけのビールを、井沢さんが飲み干してしまった。空になったグラスをテーブルに置いて、ふうっと息をつくと


「ごちそーさま」


 笑顔を残して、元の自分の席に戻って行った。

 何も言葉が浮かばずに、私は固まったまま。


 呆然自失。


 一番興奮しているのは、友達二人の方で、“すごいモン見た!” と盛り上がっている。


「今のアピール、なに!? “俺のモン”みたいな!!」

「井沢さん、絶対にムキになってたよね!?」


 まるで自分のことのように盛り上がる二人が、頼もしくて、嬉しくて、私も笑顔になる。


 さっき、彼が触れた左手を、そっと右手を包む。

 手の熱が引かないまま、忘年会を締める、部長の挨拶を聞いていた。

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