お前を待ってた
忘年会の中盤を過ぎた頃、私達三人は、楽しくお喋りをしていた。
私の誕生日まで、あと数日。もうすぐ二十歳になる。
それまで、「お酒はダメ!」というほど真面目ではないし、法律で禁止……は別にして、飲酒経験も実は何度かある。
現に、目の前には乾杯用に注がれたビールのグラスがあるし。ビールは好きではない。美味しいとも思えない。
でも、烏龍茶とかを別に頼む勇気もない。仕方がなく、ビールを少しずつ飲み進めていた。
*
まっちゃんを真ん中にして、笑いながらお喋りを続けていた時、何かに気付いた様子で、木村ちゃんが顔を上げた。
「あっ、井沢さん!」
「椎名ちゃん、後ろ!」
木村ちゃんが声を上げるのと同時に、まっちゃんが私を突いた。聞き返す間もなく、背後に気配がする。
「わあ~。井沢さん、いらっしゃーい!」
楽しげな声で、木村ちゃんが笑っている。
以前は、まっちゃんを敵視していた井沢さんだったけど、この頃にはだいぶマシになってきていた。楽しく話……は、まだ遠いけどね。
「あー。疲れた……」
私の左隣に腰を下ろすと同時に、溜息混じりに声を上げた。片膝を立てて、壁に凭れる井沢さん。
――って、すごいお酒のニオイ!!
「どれだけ飲んだの? お酒くさいんだけど」
「え? マジで?」
自分をクンクンと嗅いで、判るはずもなく。顔も赤くなるまで飲んで、珍しいなーと思いながら、私は、友達との会話に戻ろうとするけど――。
「お前、なんで来ないんだよ」
「なんでって、ココが良いから行かなかっただけだよ」
「ふーん。なんだよ、待ってたのに」
少しの沈黙……
しかも、木村ちゃんとまっちゃんまで、沈黙……
彼女たちの耳とさりげない視線が、私達に集中している。
「井沢さんて、あんな人だったっけ?」
珍しいものを見るような、興味深そうな視線。
でも、少し酔いが回っている彼は、そんなことに気付くはずもない。それどころか、さっきまで井沢さんがいた場所からも視線が飛んできている。
木内さんと志野先輩だけじゃなく、同じ課の人にも見られている。
「ねえ、アッチに戻らなくていいの?」
どうにも視線が痛くて、来てくれて嬉しいのに、裏腹なことを言ってしまう。
「いいんだよ。俺、ああいうの苦手だから」
まあ、確かに、輪の中心にいたのは佐藤さんで、井沢さんはその周りで笑っていただけだったけど。
そう返されては、それ以上何も言えない。お付き合いも大事だからね。
「お水、もらってこようか?」
ネクタイを緩めた彼を見て、そう言ってみる。
当然、「うん」という答えが返ってくるものと思い、立ち上がろうとした。
「わ――……!」
腰を浮かしかけて、その場でスッテン! 尻もちをついてしまった。意味不明な動きに、右の二人が顔を向ける。
「なにやってんの?」
「ん、うん。ちょっと滑って――あはは」
不思議そうな顔に、私は笑うしかない。
まさか、畳についた手を、“彼に取られた” なんて言えなかった。




