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逢瀬は、プラットホームで。  作者: 椎名美雪
第三章
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お前を待ってた

 忘年会の中盤を過ぎた頃、私達三人は、楽しくお喋りをしていた。

 私の誕生日まで、あと数日。もうすぐ二十歳になる。


 それまで、「お酒はダメ!」というほど真面目ではないし、法律で禁止……は別にして、飲酒経験も実は何度かある。


 現に、目の前には乾杯用に注がれたビールのグラスがあるし。ビールは好きではない。美味しいとも思えない。

 でも、烏龍茶とかを別に頼む勇気もない。仕方がなく、ビールを少しずつ飲み進めていた。



 まっちゃんを真ん中にして、笑いながらお喋りを続けていた時、何かに気付いた様子で、木村ちゃんが顔を上げた。


「あっ、井沢さん!」

「椎名ちゃん、後ろ!」


 木村ちゃんが声を上げるのと同時に、まっちゃんが私を突いた。聞き返す間もなく、背後に気配がする。


「わあ~。井沢さん、いらっしゃーい!」


 楽しげな声で、木村ちゃんが笑っている。

 以前は、まっちゃんを敵視していた井沢さんだったけど、この頃にはだいぶマシになってきていた。楽しく話……は、まだ遠いけどね。


「あー。疲れた……」


 私の左隣に腰を下ろすと同時に、溜息混じりに声を上げた。片膝を立てて、壁に凭れる井沢さん。


 ――って、すごいお酒のニオイ!!


「どれだけ飲んだの? お酒くさいんだけど」

「え? マジで?」


 自分をクンクンと嗅いで、判るはずもなく。顔も赤くなるまで飲んで、珍しいなーと思いながら、私は、友達との会話に戻ろうとするけど――。


「お前、なんで来ないんだよ」

「なんでって、ココが良いから行かなかっただけだよ」

「ふーん。なんだよ、待ってたのに」


 少しの沈黙……

 しかも、木村ちゃんとまっちゃんまで、沈黙……

 彼女たちの耳とさりげない視線が、私達に集中している。


「井沢さんて、あんな人だったっけ?」


 珍しいものを見るような、興味深そうな視線。

 でも、少し酔いが回っている彼は、そんなことに気付くはずもない。それどころか、さっきまで井沢さんがいた場所からも視線が飛んできている。


 木内さんと志野先輩だけじゃなく、同じ課の人にも見られている。


「ねえ、アッチに戻らなくていいの?」


 どうにも視線が痛くて、来てくれて嬉しいのに、裏腹なことを言ってしまう。


「いいんだよ。俺、ああいうの苦手だから」


 まあ、確かに、輪の中心にいたのは佐藤さんで、井沢さんはその周りで笑っていただけだったけど。

 そう返されては、それ以上何も言えない。お付き合いも大事だからね。


「お水、もらってこようか?」


 ネクタイを緩めた彼を見て、そう言ってみる。


 当然、「うん」という答えが返ってくるものと思い、立ち上がろうとした。


「わ――……!」


 腰を浮かしかけて、その場でスッテン! 尻もちをついてしまった。意味不明な動きに、右の二人が顔を向ける。


「なにやってんの?」

「ん、うん。ちょっと滑って――あはは」


 不思議そうな顔に、私は笑うしかない。


 まさか、畳についた手を、“彼に取られた” なんて言えなかった。

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