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逢瀬は、プラットホームで。  作者: 椎名美雪
第三章
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彼の母親

「一人で大丈夫?私も行こうか?」

「うん。私もヒマだし、付き合うよ」


 帰りに、淳ちゃんと沢田ちゃんから声がかかる。

 井沢さんが入院する病院が、そう遠くないことを知って言ってくれた。


(友達って、ありがたい!)


 何度も思ったことだけど、本当にそう思う。心細かった私は、すぐにお願いをした。



 病院の最寄駅を降り、人に聞きながら病院を探して歩いた。

 途中、花屋を見つけて、控えめなお花を買って。自分の好みで選ぶのは危険だから、店員さんに聞き、幾つか選んでくれた中から、コレという花束を購入した。


「あったー!」


 駅から五分くらい歩いただろうか。ようやく病院を見つけて、三人で声に出していた。

 しかし、着いたけれど、部屋番号が分からない。受付で聞いて、「そこのエレベーターで三階まで上がってください」と、指されたエレベーターに乗り込んだ。


「わー。なんか、緊張するね~」


 緊張すると言いながら、淳ちゃんはワクワクしている。彼女としては、井沢さんがどんな反応をするのかが見たいらしいけれど。


 エレベーターの扉が開くと、消毒液のような薬品の匂いがツンと鼻についた。私はそれまで、こういう場所に来たことがないから、言い表せない不思議な気持ちで、辺りを見回していた。


 受付で教えられた部屋番号を探して……というまでもなく、彼の名前はすぐに見つかった。

 

 エレベーターから近い部屋前のプレートに、井沢さんの名前を見つける。

 数人の名前の中に名前があるし、ベッドを仕切られているカーテンは全て閉められているし、これでどうやって見つけろと?


「コレね、ベッドの配置順なんだよ」


 少し戸惑った私に、沢田ちゃんがプレートを指して教えてくれた。なるほどーと、感心しながら見れば、井沢さんは廊下側の手前ということになる。


「じゃあ、ココなのかな」


 入口に向かって右手前の、閉められたカーテンを指した。私の後ろにいる二人は、うんうんと頷いている。


「早く行きなって」

「私達、ここで待ってるからさ」


 ヒソヒソ声で言われて、どうしたものかと考えていた時、井沢さんの場所だと思われるカーテンが揺れた。


(先客がいる!? マズイ!)


 職場の人かもとか、教団の人かもとか、もしかしたら、隠しているかもしれない彼女!? とか、ほんの一瞬であれこれと頭に浮かんだ。


 慌てふためく三人の前に、一人の女性がカーテンの向こうから出てきた。カーテンの隙間から見えた、井沢さん。


(――ん? んん!? 似てない?)


 三人揃って、出てきた女性と井沢さんを見比べる。


(まさかじゃなくても、井沢さんのお母さん!?)


 もう、目がテン。

 まだ職場の人の方が良かった。どうして、井沢さんのお母さんと鉢合わせるかなー……衝撃を受ける私達を、井沢さんが見つけた。


「あ――――!」


 完全に無防備だったであろう、彼の超プライベートな姿。そこには、普通の親子がいた。

 息子の一声に気付いたお母さんは、視線の先にいる私達に気付いた。隅で待っていようと思っていた、淳ちゃんと沢田ちゃんまで見つかり、彼女たちも逃げられない状況になってしまった。


「こんばんは!」


 慌てて頭を下げる私に、後ろの二人も続いている。


「あの、井沢さんのお見舞いに……」


 花束を抱えた私を、お母さんが見ている。絶対に顔が強張っていたはずの私に、ニコニコと笑顔を見せてくれた。


「まあ~! 女の子のお見舞いだなんて! ……さあ、入って」


 冷やかすように、息子を振りかえるお母さん。呼ばれるままに、カーテンの中に入る私達。


「会社の子なんだよ」

「仕事で、いつもお世話になっています」


 二人して、お母さんに弁解する様子を、淳ちゃんと沢田ちゃんは“頑張れ!”と言わんばかりに、壁際で見守っている。


 お見舞いの花束を渡して、早々に帰ろうと思ったのに、「ゆっくりしていってね」そう言いながら、出ていこうとする。井沢さんと二人きりになってしまう。

 お母さんに続こうとする二人を止めようとするのに、“ごゆっくり~”と意味ありなニヤケ顔で出て行ってしまう。


 残された、井沢さんと私。

 ほんの1~2分のことなのに、私はものすごい疲労感に襲われた。


「ゴメンね。まさか、お母さんがいるとは思わなくて」

「いや。来てくれるとは思わなかったから、驚いたけど」

「――誰か、来た?」

「ううん、誰も来ないよ。お前だけ」

「そっか……。あっ、具合は? 大丈夫なの?」

「うん。あと二日くらいで退院だから」

「そう。良かった~」


 少しだけ話しをして、“じゃあ”と会話を切り上げる。


「あまり長くいてもいけないから、私はこれで」

「うん。ありがとう、来てくれて」


 井沢さんから、“ありがとう”だなんて。言われ慣れない分、すごく嬉しかった。


 カーテンを開けて部屋を出ると、廊下でお母さんと、淳ちゃん、沢田ちゃんが立ち話をしている!


(私、長居しすぎた!?)


 出てきた私と、その後ろから現れた井沢さんに気付いた。


「あれ、椎名ちゃん。もういいの?」


 普段と変わらない言葉を言ってくる沢田ちゃん。ちょっと! お母さんがいるのに。――というか、何を話していたの?


「すみません、突然に。お邪魔しました」

「あら、もう帰るの?」

「ハイ」


 だって私は、ただの後輩ですから。これ以上居られる、理由がありません。……って、アレ? 私だけが中にいて、二人が外で待っているというのは……。


 ああ……。また一人、勘違いをさせてしまったのか、私は。しかも、井沢さんのお母さんだなんて。後で井沢さんが否定するとしても、やっぱり良くなかったかな。来ないほうが、良かったのかな。


 私達三人は、井沢さん親子に見送られながら、エレベーターに乗り込んだ。ドアが閉まった途端、興奮した様子で二人が詰め寄る。


「なんでお母さんがいるの!? ビックリした!!」

「椎名ちゃん、緊張したでしょ? 彼となに話したの!?」


 それよりも、私は二人がお母さんと話していた内容が気になる。ものすごく気になるが、幸いにも余計なことは言っていないみたい。

 でも、「私達、椎名ちゃんに、付き合って来たんです」って、充分に余計なひとこと――なのでは!?


 冬なのに、汗ばんでしまう私だった。

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