入院
移りゆく季節。秋が過ぎて、冬になっていた。
九月にあった、井沢さんの誕生日。
この年も、プレゼントを渡さずに、お祝いの言葉だけで終わった。渡す口実も、意味も見つからないまま、一年が過ぎて……。
昨年は、“来年こそ、プレゼントを渡したいな。お祝いしたいな”と、妄想に近い夢を抱いていたけれど。一年経っても、何も変わらない。
じゃあ、来年は――? なんて考えるのは、やめよう。
*
1993年12月
ひと月で、ここまで色々なことが起こるなんて、珍しい。
十二月上旬。
井沢さんが、入院した。
朝、課の全員が出社したところで、藤村課長がみんなを集める。
「井沢くんが、昨日入院したそうです」
想像さえしていない出来事。
思わず声を出しそうになってしまって、きゅっと口を結ぶ。課長が言うんだから、本当なんだけど、つい井沢さんの席を見てしまう。
「――で、入院先は、小野田病院です」
課長が一度だけ言った病院名を、忘れないように頭に入れた。そして、誰にも動揺を悟られないように、課長の話が終わると直ぐに仕事に取り掛かる。
藤村課長の話では、彼の持病の喘息が悪化したようだった。それに、最近はいつも以上に忙しくしていたから、それも原因のひとつなんだと思う。
それとなく、職場の様子を伺った。誰か、お見舞いに行くのかな? でも、誰が何を言うわけでもない。
“なんだろう。この、よそよそしい空気 ”
理由は解っている。誰も、彼には深く関わりたくないだけ。
『井沢くん、大丈夫かねー?』
気にする人がいても、お見舞いにいくほどではない。職場の人達がどうであれ、私は行くけどね。
けど……。病院って、どこにあるんだろう? まだインターネットがない時代。病院名から検索で一発! とはいかない。私はコッソリと会社の外に抜け出し、正門の真横にある電話ボックスに駆け込んだ。
タウンページになら、載っているはず。
緑色の電話機の下の棚に置いてある物を手にした。ボックスの中でしゃがみ、分厚い本を膝に乗せる。
細かい文字を目で追っていき――
(――あった! 住所も近いし、ここだよね)
住所と電話番号をメモして、胸ポケットに押し込んだ。
(井沢さんは、どうしているだろう? 大丈夫かな?)
でも、「私がお見舞いに行ったら、迷惑じゃないかな……」そんな不安が、頭の中を渦巻いた。




