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逢瀬は、プラットホームで。  作者: 椎名美雪
第三章
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入院

 移りゆく季節。秋が過ぎて、冬になっていた。


 九月にあった、井沢さんの誕生日。

 この年も、プレゼントを渡さずに、お祝いの言葉だけで終わった。渡す口実も、意味も見つからないまま、一年が過ぎて……。


 昨年は、“来年こそ、プレゼントを渡したいな。お祝いしたいな”と、妄想に近い夢を抱いていたけれど。一年経っても、何も変わらない。

 じゃあ、来年は――? なんて考えるのは、やめよう。



 1993年12月

 ひと月で、ここまで色々なことが起こるなんて、珍しい。


 十二月上旬。

 井沢さんが、入院した。

 朝、課の全員が出社したところで、藤村課長がみんなを集める。


「井沢くんが、昨日入院したそうです」


 想像さえしていない出来事。

 思わず声を出しそうになってしまって、きゅっと口を結ぶ。課長が言うんだから、本当なんだけど、つい井沢さんの席を見てしまう。


「――で、入院先は、小野田(おのだ)病院です」


 課長が一度だけ言った病院名を、忘れないように頭に入れた。そして、誰にも動揺を悟られないように、課長の話が終わると直ぐに仕事に取り掛かる。


 藤村課長の話では、彼の持病の喘息が悪化したようだった。それに、最近はいつも以上に忙しくしていたから、それも原因のひとつなんだと思う。


 それとなく、職場の様子を伺った。誰か、お見舞いに行くのかな? でも、誰が何を言うわけでもない。


“なんだろう。この、よそよそしい空気 ”


 理由は解っている。誰も、彼には深く関わりたくないだけ。


『井沢くん、大丈夫かねー?』


 気にする人がいても、お見舞いにいくほどではない。職場の人達がどうであれ、私は行くけどね。


 けど……。病院って、どこにあるんだろう? まだインターネットがない時代。病院名から検索で一発! とはいかない。私はコッソリと会社の外に抜け出し、正門の真横にある電話ボックスに駆け込んだ。


 タウンページになら、載っているはず。

 緑色の電話機の下の棚に置いてある物を手にした。ボックスの中でしゃがみ、分厚い本を膝に乗せる。


 細かい文字を目で追っていき――


(――あった! 住所も近いし、ここだよね)


 住所と電話番号をメモして、胸ポケットに押し込んだ。


(井沢さんは、どうしているだろう? 大丈夫かな?)


 でも、「私がお見舞いに行ったら、迷惑じゃないかな……」そんな不安が、頭の中を渦巻いた。

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