好きよりも伝えたいこと
「もう、無理に誘わない。だから、そんな顔をするな」
プラットホームの端で、井沢さんが呟いた。
二人で遊んだ日、帰りに教会へ連れて行かれるかも――と、思うことがあった。他にも、私が警戒するというか、怯むような仕草を見せる時があるみたいで。
「お前、泣きそうな顔をするからさ……」
苦笑いを浮かべる彼は、何処か寂しそうに見えた。胸が痛い。どうして、そんなに寂しそうに笑うんだろう。
「私……井沢さんの信じている神様が、嫌だとか、井沢さんが怖いとか、そんなこと思ってない。だけどね…………」
私は何かを伝えたかった。
それがどうしても、言葉として並べられない。何をどう言葉にしても、結論として“私は、あなたの信じる神を受け入れられない”ということに、変わりはない。
それでも、井沢さんの強い思いは、見ていれば解るし、話してくれれば聞いてあげたいという、不思議な気持ち。
自分でも、何がなんだか気持ちも言葉も上手く纏まらない。
「だけどね、井沢さんが強く信じてることだけは、解ってるから」
その時。
静かだったホームに、電車が入ってきた。強い風が、私の髪を巻き上げていく。
――ああ、ダメ。
全然、伝えきれない。彼を安心させるような言葉が、あるはずなのに。
乱れる髪を押さえ、井沢さんに顔を向けると、彼は微笑んでいた。
何かを言っているけれど、全然聞こえない。唇の動きを読もうとしても、よくわからない。
“ サンキュ ”?
“ アリガトウ ”?
“ ゴメンネ ”?
電車のスピードが緩やかになるのを待ち、髪を撫でつける。
もう一度、顔を上げた。
「今、何て言ったの?」
聞き返した私に、井沢さんは笑う。
「ナイショ」
「気になるでしょ? 教えてよ」
「だから、ナイショ」
「ずるい! ねー、教えてってば」
ドアが開き、乗り込むまで繰り返される。それはまるで、しつこい子供を相手に、逃げる大人といった場面。
寂しそうな井沢さんに、少し笑顔が戻った。
それで“良かった”と、安心しているようじゃ、諦める――なんて無理なのかな。




