想定内の待ち伏せ
階段を慌てて降りる姿を、木内さんに見られた。
彼女は、悲鳴のような声を上げた。
「えー!? ヤダ!! いっちゃんと椎名ちゃんて、やっぱりそーゆーことなのぉ!?」
甲高く大きな木内さんの声が、階段に響く。耳を塞ぎたくなるくらいに嫌な声。
「うるせえな」
木内さんの声を遮るように、井沢さんの苛立った声が被さる。
「ひどーい! そんな言い方しなくても、いいでしょお~!」
木内さんを無視するように行ってしまったようで、自動ドアが閉まる直前まで、彼女の文句を言うような声が聞こえてきた。
*
(どうしよう。きっと、なにか言われる……)
用事が終わっても、なかなか席に戻ることができない。
就業中は人気がない、ロッカーにいたり、周囲をウロウロしたりしたけど、そうばかりもしていられない。
足取りも、気分も重い。
木内さんが現れる前の、井沢さんの事なんて吹っ飛ぶくらいの憂鬱さ。
何度ついても、溜息は消えることがない。
(別に、怖がることは何もないんだけどね)
井沢さんと私の間に、何かがあるわけでもないし。知られて困ることは、何もない。
トボトボと歩いて、席に戻る。
「戻りました」
周囲に声を掛けて戻った私を、木内さんは、ジーッと見ている。爬虫類みたいな、舐めまわすような視線。
一日中、耐えていたけど、想定内ともいえる事が起きる。
就業後、着替えてロッカーから出たところで、二人が待ち構えていた。
木内さんと志野先輩に囲まれてしまったのだ。
彼女は間髪入れずに、
「ねーぇ、椎名ちゃん」
虫の居所が悪そうな口調で、呼び止められた。
しかも、その雰囲気が、昔で言うところのスケバンに楯突いて、呼び出しをくらったかような……。
私と一緒にいた、淳ちゃんや木村ちゃんも心配そうな眼差し。
「椎名ちゃんてさぁ、いっちゃんと何かあるの~?」
探るような、トゲのある言い方。
彼女は、井沢さんが好きだから、気になって聞いているのではない。
「何かって、なんですか? 何もないですよ」
無難に返しても、彼女の疑うような視線からは逃れられず、思い切って、少し言い返してみた。
「気になるなら、井沢さんに聞けばいいじゃないですか。なにもないのに、あるなんて言えません」
「なにそれー。いっちゃんが何も言わないから、聞いてるんでしょ?」
「なにもないから、言わないんだと思いますけど」
だからね、アナタに何の関係があるの?
言いたかったけど、さすがにそれはムリだった。
その後、木内さんは志野先輩にブツブツ文句を言い、私を振り返りながら歩いて行ってしまった。
休日に二人で出かけたことは、友達しか知らない。その友達は口が堅いから、他言をする心配はないし。もし、漏れるとしたら井沢さんからしか考えられないけど、それはあり得ないこと。
面倒なことに巻き込まれながら、井沢さんと待ち合わせていた、マックに向かった。




