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逢瀬は、プラットホームで。  作者: 椎名美雪
第三章
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立ち止った想い

 翌日の日曜日。

 写真を現像に出す気力も、何かをする元気もなくて、一日中ぼんやりとしていた。

 急に、恋をすることに疲れてしまった。


 

 その無気力さを引きずったまま、月曜日に出社することに。

 出社早々、土曜日に井沢さんと出掛けたことを知っている、いつもの三人組に捕まった。


 始めは冷やかしていた彼女たちも、浮かない私に何かを察したらしく、「落ち着いたら聞かせて」と早々に戻っていく。

 加えて、当の井沢さんは普通に元気で、私の沈んだ気持ちとは反対側にいるような気さえする。


 土曜に出かけてから、初めて顔を合わせたのに、私は恥ずかしさとか嬉しさとかよりも、妙な喪失感に襲われていた。

 彼とは会話もあまり出来ず、仕事をしているフリをして、溜息ばかり。


「元気ないけど、どうしたんだ?」


 普通にしているつもりでも、判ってしまったみたい。

 井沢さんが声をかけてきてくれても、「大丈夫だよ」とだけしか答えられず、顔はすぐに机に戻した。


 こんな状態だから、当然、昼食も喉を通らない。

 このままでは、心配そうな友達に申し訳ない。

 それに、少しでも胸のつかえを取りたくて、いつものように細かな部分は伏せて、大まかに話を聞いてもらった。


 やはり……というか、彼女たちは、ようやく井沢さんから何らかの返事とか、アクションを貰えると思っていたようで、それが無かったことに驚きを超えて、呆れていた。


「はあ!? 一日一緒にいて何もなかったって、どういうこと!?」

「あの人の考えてること、全っ然解らない!」


 そんな意味合いのことを、みんなでブツブツ言っている。


 確かに、もしも、私にまだ望みがあったとしたら、あの日はチャンスだったと思う。


「振られたあとに、無駄に優しくされるのって、ツライよね」

「想いが届かないなら、期待させるような事しないで欲しいよね」


 淳ちゃんが呟いた言葉が、胸に響く。


「もし、井沢さんが少しでも、椎名ちゃんに気持ちがあったら、言葉にしてくれなきゃ、解らないよね。伝わらないよね」


 彼女は、私の気持ちをよく理解してくれていたから、私の心にあった思いを言い当てられて、涙が溢れそうになった。


 でも、悪いのは井沢さんではなくて、私のほう。

 彼は、きちんと意思表示をしてくれたのに、諦めきれなくて勝手に追いかけていたのは、私だから。


 振られたときは、自分の気持ちが落ち着くまで、無理なく彼から離れられるまでは、好きでいようと思っていた。


 多分、それは間違いで、無理にでも気持ちを抑えないといけなんだ。きちんと線引きが出来ないから、こんなに苦しくなっているんだもん。

 勘違いをしてしまいそうになる、井沢さんの優しさを受け流せるくらい、それくらいの余裕を、私も身に着けないと……。


(私は、彼にとって“女の子”じゃなくて、“妹”なんだよ)


 何度も繰り返し、自分に暗示をかける。



 私がどう考えようと、これから先も、井沢さんには会ってしまう。

 無視なんて不可能だし、約束した、写真の焼き増しのこともある。


(それが済んだら、早く忘れよう)


 楽しかったのに、嬉しかったのに、どうして忘れないといけないんだろうね?

 少しでも油断すると、仕事帰りの電車内でも涙がこぼれそうになる。

 駅のプリントコーナーで、フイルムを現像に出した。


 そして、あの日から、どうしても気になっていた、【恋人と呼ばせて】という歌のCDを探した。

 歌手名も知らないから、ひたすらタイトルで探していく。

 私が知っていると思うくらいだから、シングル曲なのだろうと、シングルCDの場所を目で追っていく。


(――あった! コレ、女性が歌っているんだ)


 諦めると決めたのに、これだけは聴いてみたかった。



 夜、親が寝静まった頃。

 音を絞って再生させる。


 静かなメロディ

 想いが溢れ出る歌詞

 囁くような歌声


 その全てが、耳を澄ませるほどに、苦しくなってくる。

 涙が止まらない。


 カケラほどの僅かな想いでも、彼の中にあれば、私はきっと救われる。

 それさえ叶わぬのなら、この歌詞はない。

 軽い気持ちで、“歌って”という井沢さんは、残酷だ……。


 まるで二度も失恋をしたような、深い悲しみに襲われていた。

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