立ち止った想い
翌日の日曜日。
写真を現像に出す気力も、何かをする元気もなくて、一日中ぼんやりとしていた。
急に、恋をすることに疲れてしまった。
その無気力さを引きずったまま、月曜日に出社することに。
出社早々、土曜日に井沢さんと出掛けたことを知っている、いつもの三人組に捕まった。
始めは冷やかしていた彼女たちも、浮かない私に何かを察したらしく、「落ち着いたら聞かせて」と早々に戻っていく。
加えて、当の井沢さんは普通に元気で、私の沈んだ気持ちとは反対側にいるような気さえする。
土曜に出かけてから、初めて顔を合わせたのに、私は恥ずかしさとか嬉しさとかよりも、妙な喪失感に襲われていた。
彼とは会話もあまり出来ず、仕事をしているフリをして、溜息ばかり。
「元気ないけど、どうしたんだ?」
普通にしているつもりでも、判ってしまったみたい。
井沢さんが声をかけてきてくれても、「大丈夫だよ」とだけしか答えられず、顔はすぐに机に戻した。
こんな状態だから、当然、昼食も喉を通らない。
このままでは、心配そうな友達に申し訳ない。
それに、少しでも胸のつかえを取りたくて、いつものように細かな部分は伏せて、大まかに話を聞いてもらった。
やはり……というか、彼女たちは、ようやく井沢さんから何らかの返事とか、アクションを貰えると思っていたようで、それが無かったことに驚きを超えて、呆れていた。
「はあ!? 一日一緒にいて何もなかったって、どういうこと!?」
「あの人の考えてること、全っ然解らない!」
そんな意味合いのことを、みんなでブツブツ言っている。
確かに、もしも、私にまだ望みがあったとしたら、あの日はチャンスだったと思う。
「振られたあとに、無駄に優しくされるのって、ツライよね」
「想いが届かないなら、期待させるような事しないで欲しいよね」
淳ちゃんが呟いた言葉が、胸に響く。
「もし、井沢さんが少しでも、椎名ちゃんに気持ちがあったら、言葉にしてくれなきゃ、解らないよね。伝わらないよね」
彼女は、私の気持ちをよく理解してくれていたから、私の心にあった思いを言い当てられて、涙が溢れそうになった。
でも、悪いのは井沢さんではなくて、私のほう。
彼は、きちんと意思表示をしてくれたのに、諦めきれなくて勝手に追いかけていたのは、私だから。
振られたときは、自分の気持ちが落ち着くまで、無理なく彼から離れられるまでは、好きでいようと思っていた。
多分、それは間違いで、無理にでも気持ちを抑えないといけなんだ。きちんと線引きが出来ないから、こんなに苦しくなっているんだもん。
勘違いをしてしまいそうになる、井沢さんの優しさを受け流せるくらい、それくらいの余裕を、私も身に着けないと……。
(私は、彼にとって“女の子”じゃなくて、“妹”なんだよ)
何度も繰り返し、自分に暗示をかける。
私がどう考えようと、これから先も、井沢さんには会ってしまう。
無視なんて不可能だし、約束した、写真の焼き増しのこともある。
(それが済んだら、早く忘れよう)
楽しかったのに、嬉しかったのに、どうして忘れないといけないんだろうね?
少しでも油断すると、仕事帰りの電車内でも涙がこぼれそうになる。
駅のプリントコーナーで、フイルムを現像に出した。
そして、あの日から、どうしても気になっていた、【恋人と呼ばせて】という歌のCDを探した。
歌手名も知らないから、ひたすらタイトルで探していく。
私が知っていると思うくらいだから、シングル曲なのだろうと、シングルCDの場所を目で追っていく。
(――あった! コレ、女性が歌っているんだ)
諦めると決めたのに、これだけは聴いてみたかった。
夜、親が寝静まった頃。
音を絞って再生させる。
静かなメロディ
想いが溢れ出る歌詞
囁くような歌声
その全てが、耳を澄ませるほどに、苦しくなってくる。
涙が止まらない。
カケラほどの僅かな想いでも、彼の中にあれば、私はきっと救われる。
それさえ叶わぬのなら、この歌詞はない。
軽い気持ちで、“歌って”という井沢さんは、残酷だ……。
まるで二度も失恋をしたような、深い悲しみに襲われていた。




