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逢瀬は、プラットホームで。  作者: 椎名美雪
第三章
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ふたりの距離

「まだ時間あるから、何処かに行かないか?」


 そう言って、私を引き留めた井沢さんの表情からは、昼間、楽しく笑っていた優しさは消えている。

 一旦、気持ちを切り替えたせい?


「それとも、もう時間ない?」


 じっと見てくる井沢さんを見上げて、宗教に誘われた時のことを思い出してしまった。


(このまま、また教会に連れて行かれる――とか?)


 危うく、変に期待をしてしまいそうになった自分を落ち着ける。

 第一、彼が引き留めるとしたら、それくらいしか浮かばないから、まだ時間があっても、返事を言えないまま黙り込んだ。

 少し、身構えてしまった。


「――う……ん」


 井沢さんなりに、さっきまでの私とは違うことに気付いたのか、「ちょっと来て」と私の腕を取り、構内の端にある公衆電話が並ぶスペースに連れていく。


 手を放すと、彼は公衆電話に向き直り、カードケースからテレホンカードを取り出した。


(なに? どうして今、電話してるの?)


 井沢さんの行動が読めない。

 何処にかけているのかも見当つかないし、なぜ今なの?

 周囲の騒音もあり、彼が話している内容までは聞こえない。時折、考えるような仕草を見せながら、通話は数分間続いた。



 ピーピーピー

 よそ見をしていた私は、カードの返却音に弾かれて視線を戻した。


 ふうっ、と溜息をついた彼は「ごめん、待たせて」と、ほんの少し笑顔を戻していた。


「俺、もう少し時間あるんだけどさ、どうする?」

「でも、教会に行くって……」

「うん。後で行くけど、まだ大丈夫だから」


 まさかとは思うけど、今の電話って、行く時間を遅らせるためにかけたの?


「時間あるって言っても、二時間とか、そのくらいだけど」

「……うん。いいよ」


 私を教会へは、連れて行かない。

 なんとなく、そう安心して、私は笑顔を返して頷いた。

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