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逢瀬は、プラットホームで。  作者: 椎名美雪
第三章
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もう少しだけ

 帰りの電車も、来たときと同じ方面へと戻った。

 解散は、朝に待ち合わせたターミナル駅。


 私はまた乗り換えて家に帰り、井沢さんはその足で教会へと向かう。


 本当は――まだ、もう少しだけでいいから、一緒にいてほしい。でも、夕方までって、初めから決められていたことだから、ワガママなんて言えるはずもなくて。


 そもそも、そんな勇気も、度胸もないしね。


 電車内では、井沢さんは、静かというか黙りがちになっていて、これから教会に向かうから、気持ちを切り替えているのだと思った。ON/OFF を切り替えるとでもいうのかな。

 私もつられて、黙ったまま電車に揺られていた。



 チラリと井沢さんに視線を向けながら、考えてしまったことがある。

 少しでも宗教から離れれば、多少は彼の気分転換になるかもなんて、安易な考えだったのかな。


 例えば――明るいところから暗いトンネルに入ると、目が慣れなくて慣れるまでに少し時間がかかる。

 それと同じことなのかもしれない。


 ずっと宗教だけに捧げてきた人が、いきなり一般的な日常なんて難しくて当然なのかも。


“じゃあ、今日から変えてみようか!”なんてことが、即実行出来れば、世の中にマインド・コントロールで苦しむ人なんていない。


 私は単に、“彼の世界”を邪魔してしまったのかもしれない。

 何故だか急に、誘ったことが、逆に彼を困らせたかもしれないと、弱気な気持ちが押し寄せてくる。


 改札から少し離れたところで、二人は足を止めた。


「今日はありがとう。気を付けて行ってきてね」


 私にはそれくらいしか言えなくて、「うん」と頷く井沢さんを見つめる。

 上手く気持ちを切り替えられたのか、いつものような表情に戻った彼の背中が、少しずつ離れていく。


 ……――と、足を止めて、井沢さんが振り返った。

 何ごとかと、黙って見ている私の方へ戻ってくる。


「……どうしたの?」


 驚いて覗き込んだ私を、井沢さんは真っ直ぐな目で見つめてくる。

 何か忘れ物でもした?

 言い忘れたことでもあった?


 理由もわからず、私は彼の言葉を待った。


「あのさ……」


 言いかけて、言葉を切る。

 私は返事の代わりに首を縦にコクリとひとつ頷いて、続きを待つ。


 言い難そうにしていた彼は、


「まだ時間あるから……何処かに行かないか?」


 予想外の言葉を口にした。


 サヨナラを引き留める井沢さんを前に、瞬きさえ忘れてしまう私がいた。

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