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逢瀬は、プラットホームで。  作者: 椎名美雪
第三章
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想い出の写真

 噴水の水しぶきが、木陰を吹き抜けて運ばれる。

 細かなミストが、肌にヒンヤリとして気持ちが良い。


「あっ。そういえば、カメラ持ってたよな?」


 急に思い出したように振り返る。


「うん。そりゃあ勿論……」

「ちょっと貸して」


 私がバッグから出したカメラを手にすると、レンズを私に向けた。


「撮ってやる」

「え……! そんな、私はいいよ!」


 自分のカメラに、私の写真なんて要らない。

 彼の写真が、欲しいだけなのに!


 勝手に何枚か撮った井沢さんは、どこか満足そう。

 私は納得がいかないまま、カメラを手にして、井沢さんに向ける。


「私も撮るからね!」


 ドサクサに紛れて、数枚の写真を撮ることに成功。

 すると、


「ちょっと、その眼鏡貸して」


 いつもは着けたり外したりしている眼鏡を、私はこの日はずっと着けていた。

 それを外す?


 どうするのかと眺めていたら、井沢さんは私の眼鏡を着けた。


「全然似合わない!」


 本当は、私の眼鏡……似合っていたんだけどね。

 ふざけたポーズをとる彼に、笑いながらシャッターを押していた。


(早く現像に出したい! 部屋に飾っちゃおうかな)


 当時はフイルムカメラ。だからのその場で撮影した写真の確認が出来ない。現像に出すのが待ち遠しかった。

 想い出がたくさん出来たと、私は満足げにカメラを見つめて微笑む。


 井沢さんが戻ってきて、再び隣に座った。


「現像したら、俺にもくれよ」

「うん。もちろん」


 笑顔のまま顔を上げて、頷いてみせる。

 そんな私に、彼は念を押すように言ってきた。


「写真、全部ね」

「全部?」

「そう。全部」

「井沢さんのだけだよね」

「違うって」

「? ――今撮った写真、全部?」

「うん」


 チョット……私には理解が出来なかった。

 こういう場合、焼き増しって“本人が写っている写真だけ”だと思っていた。

 今まで、友達に渡すのも、渡されるのもそうだったから。


(なんで、全部なの? 私のなんて、要らないでしょ?)


 浮かんだ疑問を聞けないまま、頷いた。



 夏の夕方は、まだ明るい。

 腕時計に目を落とせば、もう17時になるところ。

 井沢さんとのリミットは、漠然と“夕方”としか言われていない。


 そうすると、もうそろそろなはず。

 彼もまた、同じことを思ったらしくて、チラリと時計を見た。


「そろそろ、行かないとな」


 呟く井沢さんを見上げる。

 私は、素直に頷いてみせた。


「うん。今日は、どうもありがとう。楽しかった」


 本当は、まだ一緒にいたいくせに、“聞き分けの良い子”を演じる。寂しいのに、そんな顔をできるはずもなくて、無理に笑顔を作った。


「それじゃあ、帰ろう!」


 そう言った私に、井沢さんは、さっきまでとは違う……?

 いつものような表情に戻り、少しの笑みを残して頷いた。

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