勇気を出して
“声が聞きたかった”――そう言って、私の気持ちを再びかき回した井沢さんは、あれから二日に一回の頻度で、家に電話をかけてきた。
決して突撃電話ではなくて、会社で“かけるね”と言われるから、心の準備が出来るし、助かっていたけど……。
私は、気になっていたことを会話に混ぜて、それとなく少し遠回りな感じで聞いてみた。
“どうして私にかけてくるの?”とは、聞けないから――。
「勧誘しなくていいの? 他にかけるところ、あるんでしょ?」
こんなことを言って、“お前に言われたくない”とか思われたかも。
けれど、彼はそこには反応せず、「うーん」と考えるようにしてから、ビックリするようなことを言った。
「……最近、ちょっと疲れてるんだ」
「疲れるって、勧誘のこと?」
「うん」
いつものように、教会の最寄駅構内からかけてきているから、周囲で誰が聞いているとも限らない。
井沢さんが、声を落としている。
その時、私には違和感が生まれた。
これだけ長い年月を、宗教一筋できている人が、「疲れる」?
もちろん、幹部は一般信者とは比較できないほどにハードだし、睡眠時間も少ないと聞いている。
私と電話で話している時は、“勧誘をサボっている”ということになる。
彼らにとっては、不真面目な行為であるはず。
今、彼は公衆電話で話しているんだから、当然、周囲の信者には“勧誘のために誰かを呼び出している”疑いなく、そう見られているはずだ。
「いいの?サボって」
「よくないけど、いいんだよ」
「なにそれ。他の人にバレたら、どうするの?マズイでしょ?」
「だから、お前に電話してるんだろ?」
この頃の彼は、前に感じていた壁は一切なくて、友達だったのか、妹的存在だったのか……。かなりフランクな関係になっていたように思う。
井沢さんだって人間なんだから、疲れることだって、嫌気がさすことだってあるだろうけれど。
何かが引っ掛かる。
少しだけ、ほんの少しだけ、井沢さんと宗教の間に、小さな「隙間」が見えたような気がした。
このタイミングだと思った。
井沢さんに言いたかったことが、ひとつだけある。
勢いじゃなくて、時期をみて言えたら言おうとしていたコト。
断られて当たり前。
ダメでもともと!!
「あのね、お願いがあるんだけど」
「うん。なに?」
「休みの日に、ドコか行かない……?」
私は、持てる勇気を全て集めて、井沢さんを誘った。




