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逢瀬は、プラットホームで。  作者: 椎名美雪
第三章
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勇気を出して

 “声が聞きたかった”――そう言って、私の気持ちを再びかき回した井沢さんは、あれから二日に一回の頻度で、家に電話をかけてきた。


 決して突撃電話ではなくて、会社で“かけるね”と言われるから、心の準備が出来るし、助かっていたけど……。


 私は、気になっていたことを会話に混ぜて、それとなく少し遠回りな感じで聞いてみた。


“どうして私にかけてくるの?”とは、聞けないから――。


「勧誘しなくていいの? 他にかけるところ、あるんでしょ?」


 こんなことを言って、“お前に言われたくない”とか思われたかも。

 けれど、彼はそこには反応せず、「うーん」と考えるようにしてから、ビックリするようなことを言った。


「……最近、ちょっと疲れてるんだ」

「疲れるって、勧誘のこと?」

「うん」


 いつものように、教会の最寄駅構内からかけてきているから、周囲で誰が聞いているとも限らない。

 井沢さんが、声を落としている。


 その時、私には違和感が生まれた。

 これだけ長い年月を、宗教一筋できている人が、「疲れる」?

 もちろん、幹部は一般信者とは比較できないほどにハードだし、睡眠時間も少ないと聞いている。


 私と電話で話している時は、“勧誘をサボっている”ということになる。

 彼らにとっては、不真面目な行為であるはず。

 今、彼は公衆電話で話しているんだから、当然、周囲の信者には“勧誘のために誰かを呼び出している”疑いなく、そう見られているはずだ。


「いいの?サボって」

「よくないけど、いいんだよ」

「なにそれ。他の人にバレたら、どうするの?マズイでしょ?」

「だから、お前に電話してるんだろ?」


 この頃の彼は、前に感じていた壁は一切なくて、友達だったのか、妹的存在だったのか……。かなりフランクな関係になっていたように思う。


 井沢さんだって人間なんだから、疲れることだって、嫌気がさすことだってあるだろうけれど。


 何かが引っ掛かる。

 少しだけ、ほんの少しだけ、井沢さんと宗教の間に、小さな「隙間」が見えたような気がした。


 このタイミングだと思った。

 井沢さんに言いたかったことが、ひとつだけある。

 勢いじゃなくて、時期をみて言えたら言おうとしていたコト。


 断られて当たり前。

 ダメでもともと!!


「あのね、お願いがあるんだけど」

「うん。なに?」

「休みの日に、ドコか行かない……?」


 私は、持てる勇気を全て集めて、井沢さんを誘った。

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