表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逢瀬は、プラットホームで。  作者: 椎名美雪
第三章
PR
65/108

デートの誘い

 今、私が言ったことは、勢いじゃない。

 いつか言える機会が訪れるまで、言うつもりなんてなかった。

 断られて当然の誘いだから、期待なんてしていない。

 でも、ほんの少しの隙間にでも、彼の心に入り込めたらいいな……そう思っていた。


“ 休みの日に、ドコか行かない……? ”


 深い想いとは裏腹に、軽い声で聞いてみたけれど、仕事終わりはほぼ毎日、休日も変わらずに活動をしている井沢さんを知っている。


 なんでも、試験なんていうものまであるらしいから、遊ぶ暇なんて本当にないらしい。

 私は、たまには気分転換も必要だと思っていたし、いつもとは違う景色を見ることも、井沢さんには必要だと思っていた。


 余計なお世話だけど、子供の頭で、本気でそう思っていた。

 受話器の向こうで、「あー……」という、躊躇うような声が聞こえる。


 その声は、あまり良くない言葉を発する時の、前置きのようなもの。

 解っていたけど、少し悲しくなって涙が浮かんでくる。


“ ごめんね、変なこと言っちゃって。言ってみただけだから ”――急に、また断られるのが怖くなって、自分から言葉を引っ込めようとした。


「……うん。いいよ」


 井沢さんから、短い返事が返ってきた。

 すぐに、もう一度言葉をかぶせてくる。


「何処にいきたい?」


 え?

 ええっ――!?


 断るんじゃなかったの?

 涙をゴシゴシと手で拭いながら、受話器を持ちかえる。


「は……え? えっと……」


 誘いを投げておきながら、そのボールが帰ってくることはないと、勝手に決めつけていた。予想外の答えに、しどろもどろになってしまう。


 軽くパニックになっている私の様子を察したのか、笑いを含んだ声が聞こえてきた。


「なんだ。誘っておいて、決めてないのか」

「あっ、う……うん。んーとね――」


 懸命に頭の中を整理してみる。


“ あ! そうだ!! ”


 かなりベタな場所だけど――恋愛経験のない子供の私が、憧れていた場所といえば、


「遊園地とか、どうでしょう……か?」

「遊園地?」

「ダメなら他の所でも……」

「いや。それじゃあ、場所は俺が考えるよ。いい?」

「……うん!」


 電話で見えないのが幸い。顔を真っ赤にしながら頷く私。

 嘘みたいな彼の返事が、まだ信じられない。


“これは夢かしら?” という表現があるけど、まさにそんな感じ。

 しかも、「マンガでしかやらないでしょ!」なんて、笑っていたのに本気で頬をつねってみた。


 夢じゃない、嘘でもない。

 本当に、休みに井沢さんと会えるんだ!


 電話を切った後も、恥ずかしさがいつまでも引かない。

 窓を大きくひらいた網戸からは、心地よい夏の夜風が流れ込む。虫の音を聞きながら、ベッドに顔を埋めて幸せに浸っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ