見られた「裏の顔」
井沢さんの本当の「裏の顔」を見た人は、社内には一人もいない。
私を勧誘の時の、あの怖いくらいに熱心な井沢さんも、「裏」であることには違いない。
そうではなくて、もっともっと深い部分。
配下の信者を指導する時などは、かなり怖いもののよう。
実際に私が知っている井沢さんは、「表」でしかなく……。
いや。
知らない方がいいのだけれど、気にはなっていた。
それを、見てしまった人がいる。
「ねえねえ! 昨日さ、夜、井沢さんに会ったんだよ」
朝一番で、そんな報告をしてきたのは、誰でもない、まっちゃん。
井沢さんと、まっちゃんは、隣合う区に住んでいる。
「会ったって、何処で?」
「ウチの近くのファミレスで。しかも、深夜」
“まっちゃんこそ、深夜に何してたのよ”という突っ込みもソコソコに、私はその先を早く聞きたい。
「男の人で集まっててさー、超怖かった!」
「へえ」
「あれ、勧誘してたんじゃない? 声掛けたら、超睨まれた!」
ああ。
そりゃあ、声掛けたらダメだよ。
まっちゃん、敵視されてるんだしさ。
そんな言葉が、喉から出そうになる。
「別人だよ。すんごい怖かったもん」
怖いんだろうなぁ……というのは、想像では解っているつもり。
彼の本当の顔は、どれなんだろう。
どれが本物で、偽物ということはないだろうけれど、私には、私に見せてくれる表情だけが本物。
いつか、その“別人のように怖い表情”を、見る時が来るのかな。




