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逢瀬は、プラットホームで。  作者: 椎名美雪
第二章
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あてつけ

 社内にひとり、どうしても苦手な人がいた。

 管理部の木内さん。


 仕事上では、ほとんど接点がなかったのが救いで、たまに振られる世間話に答えるくらいの、薄い関係だった。


 何度も書いているように、彼女はとても積極的でグイグイ行くタイプ。

 男性にも遠慮がなくて、ボディタッチも半端ない。一見、気さくそうに見えるけど、私には裏があるように思えてならなかった。


 噂が大好き。

 詮索大好き。

 チヤホヤされるの大好き。


 遠目に彼女を眺めていても、そう見えてしまう。

 淳子ちゃんが、彼女たちのターゲットになっていたことがあるから、なおさら好意は持てないでいた。


「いっちゃぁ~ん♪」


 木内さんが、突然井沢さんを親しげに呼び始めた。

 女性が甘えるような、ねっとりした声を、フロアに響かせる。

 私はハッとしながらも、背中にある井沢さんの座席を振り向けない。


 きっと木内さんは楽しげに、井沢さんにベタベタしている。

 姿は見ていなくても、声で判った。


 私には、嫉妬をする資格なんてないけど、どうしても気になってしまう。井沢さんが、女性と親しくしている姿を見るのも嫌だった。

 彼が誰をどんな風に思っても、私には関係ない。


 その場から逃げたくて、声も聞きたくなくて、用事を見つけて席を立とうとした。

 ただ、トイレに行くのではダメ。

 もっと長い時間、席を離れていても不自然ではない口実が必要だ。


 たいした枚数ではなかったけど、得意先から来ていた受注伝票を手にして、社内システムのコンピューターがある、営業フロアの真ん中に逃げることにした。


 でも、そこへ行くには、彼の方に身体を向けることになる。

 なるべく視界に入れないようにしていたのに、私は顔を上げてしまった。


 木内さんが、私を見ていた。

 偶然に見たという感じではない。


 ふふっ。


 馬鹿にするような、からかうような笑みを浮かべて、視線だけ私に向けていた。

 私への、“あてつけ”なのだと判る意地悪な笑み。


 彼女は、私の気持ちを知っているの!?

 それとも、廊下でのことが噂になっているの?


 井沢さんが、どんな女性を選んでも関係ないけど、木内さんだけは絶対に嫌だ!

 悔しくて、悔しくて、胸が詰まる。


 私には、早く時間が経つのを待つことしか、出来なかった。

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