あてつけ
社内にひとり、どうしても苦手な人がいた。
管理部の木内さん。
仕事上では、ほとんど接点がなかったのが救いで、たまに振られる世間話に答えるくらいの、薄い関係だった。
何度も書いているように、彼女はとても積極的でグイグイ行くタイプ。
男性にも遠慮がなくて、ボディタッチも半端ない。一見、気さくそうに見えるけど、私には裏があるように思えてならなかった。
噂が大好き。
詮索大好き。
チヤホヤされるの大好き。
遠目に彼女を眺めていても、そう見えてしまう。
淳子ちゃんが、彼女たちのターゲットになっていたことがあるから、なおさら好意は持てないでいた。
「いっちゃぁ~ん♪」
木内さんが、突然井沢さんを親しげに呼び始めた。
女性が甘えるような、ねっとりした声を、フロアに響かせる。
私はハッとしながらも、背中にある井沢さんの座席を振り向けない。
きっと木内さんは楽しげに、井沢さんにベタベタしている。
姿は見ていなくても、声で判った。
私には、嫉妬をする資格なんてないけど、どうしても気になってしまう。井沢さんが、女性と親しくしている姿を見るのも嫌だった。
彼が誰をどんな風に思っても、私には関係ない。
その場から逃げたくて、声も聞きたくなくて、用事を見つけて席を立とうとした。
ただ、トイレに行くのではダメ。
もっと長い時間、席を離れていても不自然ではない口実が必要だ。
たいした枚数ではなかったけど、得意先から来ていた受注伝票を手にして、社内システムのコンピューターがある、営業フロアの真ん中に逃げることにした。
でも、そこへ行くには、彼の方に身体を向けることになる。
なるべく視界に入れないようにしていたのに、私は顔を上げてしまった。
木内さんが、私を見ていた。
偶然に見たという感じではない。
ふふっ。
馬鹿にするような、からかうような笑みを浮かべて、視線だけ私に向けていた。
私への、“あてつけ”なのだと判る意地悪な笑み。
彼女は、私の気持ちを知っているの!?
それとも、廊下でのことが噂になっているの?
井沢さんが、どんな女性を選んでも関係ないけど、木内さんだけは絶対に嫌だ!
悔しくて、悔しくて、胸が詰まる。
私には、早く時間が経つのを待つことしか、出来なかった。




