暗がりの目撃者
突き当たりの自動ドアが開いた。
静かな場所だけに、開閉の音が大きく響く。
入ってきた人の背中が、一瞬だけ明るくなる。
階段踊り場の窓から差し込む、屈折した光が、自動ドアだけを照らした。
あれは、男性?
でも、スーツではなく、男性社員用の制服(作業着)だったような。
私と井沢さんが、今からコッソリ戻ることはます無理で、沈黙のまま通り過ぎるのを待った。
向こうは、廊下に誰かがいるなんて思っていない。
相手がこちらに気付き、人影を認識した瞬間――ギョッ! としたのが判った。
物音ひとつしなかった廊下に、人がいるんだから、驚かない方がおかしい。
隣り合わせて、表情を確認できるくらいの明るさはある。
歩いてきた相手と顔を合わせると、何とも言えない微妙な空気が流れた。
やましい事は何もないのに、変な気まずさが残る。
営業の人ではなく、私は知らない顔。
井沢さんは知っていたらしく、ペコリと頭を下げた。
向こうも軽く会釈をするが、“見たぞ!”というような、興味深そうな視線が向けられた。
その視線は、井沢さんと私を、交互に捉えている。
少しだけ、嫌な感じと嫌な予感……。
男性が通り過ぎてしまうと、井沢さんは少し溜息をついた。
切ってしまった話の内容に対してだったのか、今の人に、変に誤解されたと思ったのか。
「ともかく」
私を見下ろして、静かに口を開く。
「ちゃんと出てこい」
それだけ言うと、井沢さんは背中を向けた。




