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逢瀬は、プラットホームで。  作者: 椎名美雪
第二章
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裏切者は許さない

 営業本部を出ると、すぐ近くに階段へ出られる自動ドアがある。

 エレベーターのない古い建物だったから、階段で上り下りをしていた。その階段は、駐車場や正門への近道。

 大抵の人は、この自動ドアを出入りしていた。


 井沢さんに引っ張っぱられた先――――自動ドアを出ず、営業本部の扉の前に真っ直ぐに伸びている廊下。


 そこは物置や資料などが置いてあるだけのスペースで、廊下なのに電気も消されていて、昼間でも薄暗い。

 日差しも奥までは届かないものの、通り過ぎるくらいなら問題はなかった。しかも、擦れ違う際には、どちらかが肩を引かないとぶつかる狭さ。



 ここに引っ張ってきたのは、人目を避けるのに都合が良かったのだろう。


「なによ」


 答える私は、無意識に少し反抗的で、言い返すような口調になる。

 呼び止めた彼の声は怒っていなかったのに、”これから怒られる”と決めつけて返していた。


 だって…………彼は以前、「裏切り者は許さない」そう言っていたから。冗談だったのかもしれないけど、半分は本心だろうと思った。


「お前、どうして最近来ないんだよ」


 いつの頃からか、二人だけの時に限って、私のことを“お前”と言った。

 彼の口から出るのは、いつも宗教のこと。それが判っているから、私は顔を伏せた。


「成田さんに言われたぞ。来ないって」


 続ける彼の声には、何故だか怒りを感じない。

 てっきり、怒られるものと思っていたから、急に肩の力が抜けた。


 もしかしたら、今なら……嫌だって言っても大丈夫かな。

 怖い顔をされないかな?


「……だって、嫌なんだもん」

「え? イヤ?」

「行きたくないんだもん」


 子供が言い訳をするような、そんな口調で答えていた。

 もしかしたら、頭の上から罵声が浴びせられるかもしれない不安で、顔が上げられない。


 ずっと、井沢さんのネクタイの辺りを見ていた気がする。

 もっと自分に勢いがあれば、“やめたい”と、はっきり言えたのに、大事な部分は飲み込んでしまう。


 それでも、私には精一杯の正直な気持ち。

“行きたくない”そう言えただけも、私には頑張ったほう。


「なにかあったのか?」


 そんな問いかけにも、首を横に振ったりして答えていた。



 いつもなら、誰とも擦れ違わないような廊下。

“こんな時に限って――”な事は、意外に起こる。


 廊下の突き当たりにある自動ドアが、ガガガガ! と古い音を立てて開いた。

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