裏切者は許さない
営業本部を出ると、すぐ近くに階段へ出られる自動ドアがある。
エレベーターのない古い建物だったから、階段で上り下りをしていた。その階段は、駐車場や正門への近道。
大抵の人は、この自動ドアを出入りしていた。
井沢さんに引っ張っぱられた先――――自動ドアを出ず、営業本部の扉の前に真っ直ぐに伸びている廊下。
そこは物置や資料などが置いてあるだけのスペースで、廊下なのに電気も消されていて、昼間でも薄暗い。
日差しも奥までは届かないものの、通り過ぎるくらいなら問題はなかった。しかも、擦れ違う際には、どちらかが肩を引かないとぶつかる狭さ。
ここに引っ張ってきたのは、人目を避けるのに都合が良かったのだろう。
「なによ」
答える私は、無意識に少し反抗的で、言い返すような口調になる。
呼び止めた彼の声は怒っていなかったのに、”これから怒られる”と決めつけて返していた。
だって…………彼は以前、「裏切り者は許さない」そう言っていたから。冗談だったのかもしれないけど、半分は本心だろうと思った。
「お前、どうして最近来ないんだよ」
いつの頃からか、二人だけの時に限って、私のことを“お前”と言った。
彼の口から出るのは、いつも宗教のこと。それが判っているから、私は顔を伏せた。
「成田さんに言われたぞ。来ないって」
続ける彼の声には、何故だか怒りを感じない。
てっきり、怒られるものと思っていたから、急に肩の力が抜けた。
もしかしたら、今なら……嫌だって言っても大丈夫かな。
怖い顔をされないかな?
「……だって、嫌なんだもん」
「え? イヤ?」
「行きたくないんだもん」
子供が言い訳をするような、そんな口調で答えていた。
もしかしたら、頭の上から罵声が浴びせられるかもしれない不安で、顔が上げられない。
ずっと、井沢さんのネクタイの辺りを見ていた気がする。
もっと自分に勢いがあれば、“やめたい”と、はっきり言えたのに、大事な部分は飲み込んでしまう。
それでも、私には精一杯の正直な気持ち。
“行きたくない”そう言えただけも、私には頑張ったほう。
「なにかあったのか?」
そんな問いかけにも、首を横に振ったりして答えていた。
いつもなら、誰とも擦れ違わないような廊下。
“こんな時に限って――”な事は、意外に起こる。
廊下の突き当たりにある自動ドアが、ガガガガ! と古い音を立てて開いた。




