恐怖=好奇心
井沢さんと仕事帰りに入った、喫茶店での出来事を、友達に相談した。
相談というよりも、聞いてもらったという方が正確かもしれない。
彼のことを相談するのは、いつも決まった三人。
淳子ちゃん、まっちゃん、沢田ちゃん。
皆、一様に、なんともいえない表情を見せる。
「やっぱりかー」
「酷いよ、井沢さん」
「ちょっとー。大丈夫なの?」
凹む私を励まそうとするが、なにをどう言ったら良いのか判らない様子。
「絶対に、行かないほうがいいよ!」
口を揃えてそう言うけれど、誰の目にも、私が行ってしまうことは解っていたようだった。
昨日、あの問いかけに、私は頷いてしまっていた。
今度こそ本当に、“彼の聖域”に行く。
会社での井沢さんしか知らないから、彼が普段、仕事の後や休日にどんな事をしているのかが、気にならないと言えば嘘になる。
一日が経って、幾分か冷静になっていた私は、「怖さ」と「好奇心」が同じくらいになっていた。
*
いつもの、見慣れたプラットホーム。
遠目にも気付かれにくい位置から、二人で電車に乗り込む。
会社での二人の様子とは変わり、押し黙ったような、妙な間があった。
井沢さんは、何を考えていたんだろう。
昨日、喫茶店に行くために降りたターミナル駅は、改札を抜けずにスルー。
どうやら乗り換えるようで、別の路線へと向かった。
「ねえ。教会って、どこにあるの?」
さすがにもう答えてくれるはずだと、はぐらかされ続けたことを聞いてみる。
多分、いや。
きっと、あの定期券にあった駅で降りるに違いない。
井沢さんが答えた場所は、やはり思ったとおりの駅。ターミナル駅で乗り換えた隣の駅だった。しかも、駅を降りたら近いのだという。
まさか、そんなところに、井沢さんの聖域があったなんて。
目的の駅に着く頃には、彼の表情から笑みは消えて、眼差しには鋭さが増していた。私は黙って、後をついていく。
「井沢さん、こんにちは」
「お疲れ様です!」
駅の構内を出る直前。
彼と同じくらいの年齢の男性たちから、声が飛んだ。突然近くから掛けられた声に驚いたのは、私だけ。
彼は頷いたり、何か声を掛け、時には指示しながらも、足は止めない。
その人たちは、チラリと私に目を向けて、視線を戻した。“新入りを連れてきた” という視線だったのだろうか。
一人でも多くの信者を獲得しなければならない世界。
彼は、どれほどの人を、この先の聖域に連れてきたんだろう。
余程なにかを思いつめていて、藁にも縋りたいくらいの精神状態ではない限り、初めから嬉々として、心弾ませて来るような所ではないのは確かだ。
それからほどなくして、私が目にしたものは、光溢れ、希望に満ちた明るく素晴らしい世界――――ではなくて、鬼気迫る混沌とした世界だった。




