戸惑い
仕事が終わると、井沢さんに言われたように、マクドナルドに向かった。
その事を、友達に言って向かったのかさえ、覚えていない。本当に、それくらい動揺していた。
普通ならば、好きな人から、人目を避けるように声を掛けられて、「帰り空いてる?」なんて聞かれたら、「もしかして!?」と思うよね?
そんな期待を持つだろう場面でも、井沢さんは、そうじゃないから。
甘い期待なんて、これっぽっちも持たず、ただ不安な気持ちを抱いていた。
マックの二階席の角。
ガラス張りになった、角のL字になっているカウンター席からは、プラットホームや駅へ通じる階段がよく見下ろせた。
座る場所によっては、会社の方から歩いてくる人波まで見渡せる。
何も注文せずに座ってはいられないから、ひとまずオレンジジュースを飲む。
まだ何も起きていないけど、意味もなく胸が嫌な音を立てていた。
ただ、怖かった。
井沢さんから明かされるだろう、彼の「素顔」を知るのが怖かった。
あんなに彼の素顔を知りたかったのに、今更どうして怖いんだろう?
少しして、井沢さんが息を切らせて現れた。
彼は、特に何も注文せず、身体だけで二階席にやってきた。
「お待たせ」
そう言って、笑顔を見せてくれるけど、いつものように真っ直ぐには見られない。
彼は来たばかりで、息つく暇もなく「それじゃ、行こう」戸惑う私を横目に、先を急がせた。




