狂い始めた歯車
私の「告白」は、玉砕で終わった。
吹っ切れた感もあり、以前と比べたら気が楽になったみたい。
井沢さんに“俺のことは忘れてくれ”と、言われたわけでもなし、ただ、彼の近くで見つめていた。
この頃、1993年になっていた。
寒い季節だったのを覚えているから、春前のことだったと思う。
井沢さんも、以前と変わらずに接してくれているから、仕事に支障が出るという事もなかった。
「あの日」から少し経った頃。
席を立ち、営業本部を出ていく私を、彼が追いかけてきた。
「椎名ちゃん!」
いきなり呼び止められると、驚いてしまう。
急ぎの電話が入ったとか、その類の場合にしか起こりえない状況だったから。
「はい!?」
トラブったのかと、半分警戒気味に返した私が耳にしたのは、どうにも慣れない馴染みのない言葉。
「あのさ。今夜、時間ある?」
「……は?」
間抜けな返事だったと思う。
それくらいに、井沢さんが発した言葉の意味が、理解できなかった。
「え、まあ……ありますけど……」
戸惑い気味に返す私に、井沢さんは満足そうに笑った。
「じゃあ、帰り、マックで待っていてくれないかな?」
「うん……」
私が頷いたのを確認すると、彼はまた席へ戻っていった。
パタンとドアが閉まり、一人になる。
ドア一枚隔てた向こうでは、印字をしながら、ガタガタと書類をはき出すプリンターの音。
電話が鳴り響き、話す声も僅かに聞こえるけど、私がいた場所は静かで。
井沢さんの行動は、私が“一人になるタイミング”を待ってたようだった。
今さっき、井沢さんが言った言葉を、よく思い出してみる。
仕事が終わってもまた会える嬉しさと、入り混じる不安。
解ってたよ。
私にも 「その時」 が来たんだ、って。




