強がり
行き交う車の騒音が気にならないほど、私の思考回路は停止していた。
絶対に、今言うことではないと思ったから。
「井沢さんが、好きなの」
そう言ったきり、私は続く言葉が出てこない。
小道から県道に抜ける、少し手前での事だった。
渡ってしまえば、駅は近い。
一度変わってしまうと長い、信号待ちの間のこと。
私に顔を向けた井沢さんは、困ったような、躊躇うような表情。
ゆっくりと口を開いた。
「――ごめん。俺、今そういう余裕がないんだ」
僅かに抱いていた希望が、消え去った瞬間だった。
だけど、不思議と悲しさとか、そういう気持ちはない。
(やっぱり、そうだよね)
あの噂を差し引いても、彼が私に頷いてくれるとは考えにくいし、納得した。
この告白で、妙にギクシャクしてしまうのは、どうしても避けたかった心理が強かったのかもしれない。
私は、振られてすぐに、笑顔を作った。
「あははー。そうだよね! うん、ゴメンね!」
“全然、気にしてないわ~!”
というように、少し大袈裟に振る舞う私がいた。
自分でさえ驚いた「告白」という事態に、気持ちが対応できなかったんだと思う。
信号が青になり、歩き始める二人は、やはり何処かぎこちなくなる。
私は、勤めて元気に、いつもと変わらないように振る舞った。
心に大きな穴……それよりも、もっと大きな空間が空いてしまったのは事実で、一人になると、耐えられないほどの悲しみが押し寄せてきた。
どんなに想っても、これ以上は彼に近づけないと、解ってしまったから。
振られたからといって、想いを即消去できるはずもなく。
気持ちが強ければ強いほど、寂しさが強くて苦しかった。
泣くだけ泣いて、思い切り泣いて、ひとつの答えを出した。
井沢さんに、嫌われていないだけでいい。
特別な存在になれなくても、好きな気持ちだけは大切にしたい。
自然に吹っ切れるまで、彼を好きでいようと。
だから 翌日も、いままでと変わらない私で、
「おはよー!」
元気な顔で、彼の前に姿を見せた。




