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逢瀬は、プラットホームで。  作者: 椎名美雪
第一章
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肩越しに映る夕陽

 よく、友達に聞かれた。

 「どうして、井沢さんを好きになったの?」――って。

 一目惚れが始まりだから、つまりは“見た目が好み”ということだ。いくら見た目が好みでも、中身を知ったら「無理かも」と、芽生えていた恋心が薄れていくこともある。


 井沢さんと私は、趣味や好きな音楽やスポーツも全然違う。正直なところ、惹き合う要素が、何処にも見つからない。

 本当は、もっと細かいところまで知りたかった。好きな食べ物とか、好きな女性のタイプとか、芸能人は? ――とか。散々悩んだ挙句、あまり詮索をすると却って怪しいし、鬱陶しがられるのが怖くて、多くを聞くことが出来なかった。


 でも、きっと……多かれ少なかれ、好意を持っていることは、彼も薄々とは気付いていたと思う。



 駅に向かって、淳子ちゃんと松井ちゃんと3人で歩いていた。

 しばらく歩いたところで、後ろからギコギコと自転車を漕ぐ音が近づいてきた。古い自転車が発する、チェーンが軋むような、独特の錆びついた音。滅多に耳にすることがない音に振り返り、その目を疑った。


 井沢さんが、古いママチャリに乗って走ってくる?! あまりのミスマッチさに、3人は呆然。すごい物を見てしまったと、言葉通りに〈目が点〉だった。


 「それ、井沢さんの自転車!?」


 間髪入れずに、松井ちゃんが愉快そうに突っ込みを入れる。丁度3人の横で自転車を止めた彼は、至って普通に「そうだよ」と。

 井沢さんの――というよりも、彼の家の自転車だろうけれど、その光景は衝撃的過ぎた。せめて、もっとスポーティな自転車に乗っていて欲しかったな…なんて。


 企んだ様子の松井ちゃんが、唐突な提案をした。


 「椎名ちゃん、後ろに乗せてもらいなよ!」

 「いやいやいや! 何を言ってるの!? 私、重いし!!」

 「えー、いいじゃん。乗っちゃいなって」


 ゴチャゴチャと言い合っている3人を横目に、彼は再び漕ぎ出そうとする。


 「それじゃ」

 「うわわ! 待って! 乗るから! 乗せてー!」


 半ばパニックで、彼の自転車を捕まえた。

 恥しさのあまり情けない顔になっている私を、クスクスと笑い眺めている。

 スカート姿の私は、荷台を跨げない。不安定で怖いけれど、横向きに座る。だが、掴まる場所に困り、荷台とサドルの淵に指先で掴まることにした。この態勢は、背中から落ちてしまいそうで怖い。


 「いくぞ」


 声をかけて、漕ぎ出した彼の横顔は笑っていた。大好きな人の笑顔。

 自転車が動き出してすぐに、身体が安定せず怖い気持ちが膨れてくる。そうはいっても、掴まるところなど他にない。


 (掴まったら、嫌がられないかな……?)


 いつもより近くにある、彼の背中を見つめる。


 (よ、よしっ――! )


 勢いに任せて、井沢さんの腰に少しだけ掴まった。彼に触れてしまった緊張と、嬉しさでドキドキが止まらない。書類とか、何かを手渡すときに、指先が触れたりとかは何度かあっても、さすがに身体は……。

 まして、気軽にボディータッチなんてするタイプではないから、すごく緊張した。


 こんなことは、もう二度とないのだろうと思う。そう思ったら、無性に寂しくなる。目の前の彼の背中を見つめているうちに、私は自然と、頬を寄せた。

 凭れるように、そっと。


 ゆるやかな風が、井沢さんのコロンの香りを運んでくる。

 顔を上げれば、彼の肩越しから、赤とオレンジの間のような色をした夕陽が見えた。

 見たことがない位の、とても綺麗な夕陽だった。


 今でも夕陽を見ると切なくなるのは、そのせいなのだろうか――。

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