ライバル出現!?
隣りの課には、高校の1学年上の先輩がいた。
笑顔が素敵で、少しぽっちゃりした可愛らしい、志野えみさん。
彼女が先輩だと知ってから、親しみを込めて“志野先輩”と呼んでいた。志野さんのいる業務課は、営業本部全体の雑務などを一手に任されている。
いつも和やかな業務課とは打って変わり、業務課と販売課の間には、殺伐とした、物凄い存在感を放つ管理課がある。営業課をサポートする役割の仕事内容で、製品の流通を管理する重要な課。
管理課には、志野さんの親友(と呼ぶくらいに仲が良い)、木内さんという女性がいた。
木内さんと川本さんも仲が良くて、そこに志野さんが加わると華があって賑やか。どの会社にもいる、“社内でも目立つ女性”メンバーの出来上がり。
1人だと感じが良いのに、複数になると首を傾げる感じになってしまう。それが女性の性というものか。
困ったことに、木内さんと志野さんの2人。
後々に、椎名の周囲で関わってくることになる。
*
管理課について、もう少し続けて書いてみる。
この課は、課長を除き全て女性。全て女性ということは、どういうことか、お解りだろうか?
女性だけの職場は、何かと面倒なもの。
営業の立場で言うならば、お局様の機嫌を損ねたらアウト。何故かといえば、大至急納品したい製品が、手に入らなくなる恐れがあるから。
うっかり地雷を踏むと、納期を催促される取引先と、生産が追い付かないラインの間で板挟みになる。
公私混同は良くないが、人間だし、多少のことは仕方がないのだろうか。
そこをなんとか、上手くやっていくと、「もう、仕方がないなー」などと言いながら、在庫が無いはずの製品を、何処からか調達してくる。
魔術師のようで、恐ろしい……。
毎日が殺伐としている管理課は、私の席の真後ろにある。
背中から、不機嫌そうな声や上機嫌な笑い声が聞こえてきて、内心はとても怖かった。
*
ある日、井沢さんの取引先の受注が滞った。
「椎名ちゃん、これどうなってる?」
「はい、ちょっと待ってくださいね。――あっ!!」
そう。やってしまった。ウッカリミスだ。
納期は過ぎ、しかも在庫ゼロの製品。絶体絶命の、危機的状況。これはもう覚悟を決めて、管理課に直談判をしなくてはならない。本当は泣きそうに怖いが、自分のミスなのだ。仕方がない。
恐る恐る、製品を担当している、長尾さんに声を掛けた。背を向けている彼女は、ベテランの貫録がある。
「あの……長尾さん、すみません」
「――ナニ?」
返事からは、既に不機嫌そうな雰囲気。
それもそのはず。営業から声が掛かることは、面倒なお願いだけだから。
しかし、どんなに怖くても、ここは踏んばらないといけない。――だが、私の話が終わらないうちに、一方的に会話を切られてしまう。
「え?! 無理無理! 無理に決まってるでしょ!! 急に何を言ってるの!?」
ムスッとした態度に、強い口調で突き返されてしまう。再度お願いしようとするものの、取りつく島もない状態。どうしたものかと、考え巡らせてもダメで、尻尾を巻いて自分の席に戻ことにした。
ここは、藤村課長に相談か?
いや。その前に、まずは担当の井沢さんに報告だ。
「井沢さん、すみません。無理と言われました……」
「えっ!? マジで? 無理だって?」
「はい。無理だと……」
「んー。わかった。ちょっと待ってて」
彼は、少しの笑みを残して席を立つ。
「ねえ、長尾さん。コレ、どうしてもダメかな?」
嘘みたいに、爽やかな笑顔。
近くで見ていた私も、つい見とれてしまうくらいの――。
それからは、もう想像通りの展開だった。
「何とかなったよ」
席に戻り、今度は私に笑って見せる。
まさか笑顔ひとつで、あんなに不機嫌で怖かった長尾さんを変えてしまえるとは!!
「えー。もう、しょうがないなー」と身体をくねらせ、井沢さんからの頼みに嬉しそうに応える長尾さんの表情は、紛れもなく女性そのものだった。
何故だか無性に気になり、それとなく長尾さんの様子を窺っていると、案の定、彼女も井沢さんを視線で追っていた。
仕事の内容で話しているというのに、井沢さんと話す度に睨まれ、幾つもの矢が背中に刺さったような気持ちになる。
――まさか、ライバルが真後ろにいるとは思わなかった。




