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逢瀬は、プラットホームで。  作者: 椎名美雪
第一章
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医務室

 初夏を迎える頃には、生意気にも、職場の先輩を相手に気安く口が利けるまでになっていた。俗にいう、“タメ口(ためぐち)”というやつだ。


 若さ故というのと、周囲の先輩たちも気さくで、話しやすい雰囲気を作ってくれていたこともあり、馴れ馴れしくなるまでに、それほどの時間はかからなかった。



 ある昼下がり。いつものように、食堂で同期の友達とテーブルを囲んでいた。私の同期は、年齢性別など関係なくとても仲が良い。

 入社早々、社内の誰かに恋をすることは私に限ったことではなくて、自ら進んで「今日、○○さんがねー」と、意中の彼の話をしたりしている。


 そんな中、何処からか、「井沢さんが倒れた」と聞こえてきた。

 私の耳に入ったときには、彼は既に医務室に運ばれた後らしく、慌てて外に出てみたが姿はない。


 「椎名ちゃん! 井沢さんのとこ、行ってきなよ!」――想いを知っている友達は、口を揃えて言う。

 そうは言っても……どんな顔で、医務室に行けばいい? ただの同僚が、医務室まで顔を出す? おかしな事じゃない?

 第一、昼休み時間が終わっちゃうよ。


 百面相並みに考えあぐねていたが、友達に背中を押され行くことにした。



 正門受付と同じ建物の2階に、医務室があった。

 初めて上がる2階。狭くて古い階段を上がり、ソロリと静かに顔を出した。


 (なに、コレ。仮眠室?)


 医務室といえば、やはり白衣を着た保健医がいるイメージだが、どうも名ばかりの様子。保健医などおらず、狭い部屋の中央にパイプベッドが鎮座しているだけ。

 井沢さんは、ワイシャツ姿で背中を入口側に向けて横になっているようだ。

 急にモゾモゾと身体が動いた。眠っていると思い込んでいた私は、ゴソっと彼の身体が動いて驚いた。


 (起きてるの!?)


 ちょっと寝顔を見て、帰ってくるはずだったのに――ダメだ。

 これは、気付かれずに帰るなんて、無理そう。


 「――あれ?」


 人の気配に気づいたのか、井沢さんが頭を起こした。バッチリ存在を知られて、もう逃げも隠れも出来ない状況。


 (やっぱり無理だよ! なんて言えばいいの!?)


 思い出すのは、さっきの友達の顔。頭が真っ白で、言葉が何ひとつ浮かばない。


 「……? 椎名ちゃん? どうした?」


 そんな問いかけに、冷や汗が出る。

 どうって…どうって……。


 「えっと、あの……井沢さんが、倒れたって聞いたから。――心配で、来てみたの」


 ベッドの上に起き上がり、こちらを見ている。

 消え入りそうな声に、彼は少し笑ってくれた気がした。


 「ああ…うん。俺、喘息持っててさ、たまに発作が出て苦しくなるんだよ」


 そう言う彼は、喘息用の吸入器を常に持ち歩いていた。

 持病を持っていたなんて知らなかったし、そんな姿が意外すぎて、驚きしかない。


 「喘息って、大丈夫なの?」

 「うん。少し休めば大丈夫」

 「そっか……。良かった」


 ほんの少しだけ、ホッとしたのもつかの間。

 昼の始業時間を、5分も過ぎていた。


 「わ! もう時間過ぎてる! じゃあ、戻りますね」


 慌ただしく出ていこうとする私に、井沢さんは呟いた。


 「サンキュ」


 笑顔で頷いた私には、もうさっきの恥ずかしさは無かった。

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