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逢瀬は、プラットホームで。  作者: 椎名美雪
第四章
108/108

あなたに、手が届いたら

 何度か二人で入っている、ターミナル駅近くの喫茶店。

 これまでとはワケが違うというか、変な緊張があった。いつものように、今まで通りで……それしかないけど、それでいいのかな?って。


 しばらくは、社内のこととか、普通の話で牽制しあっていた。

 会話が途切れると、どうにも居づらい。とうとう、本題といえるのか、井沢さんが切り出した。


「――俺のこと、避けると思ってたよ」


 タバコに火をつけて、静かに煙を吐き出す。呟くように言って、井沢さんは何処かを見つめていた。


「避けていたのは、井沢さんでしょ。私、そんな事してないのに」

「俺が!? いつ、そんなことしたんだよ」

「いつ、って……あの話を聞いてもらってから、変だったじゃん」


 軽く言い合うように、言葉が往復している。

 一旦、流れを止めるような間合い。


「あれは、避けてたんじゃない。考え事をしていただけだ」

「そっか。嫌われたのかと思った」

「お前を嫌う理由なんて、ないだろ? 俺は、お前が避けないことに驚いた」

「どうして、私が井沢さんを避けるの? そんなことしないよ」


 ようやく笑顔を浮かべられる。心に温かさが戻ってきた。

 嫌われたのでもなく、避けられたのでもなく、利用されたのでもない。そう思ったら、気持ちに素直になれるような気がした。


 つられるように、彼も微笑んで、「本当に、おもしろいヤツだな」私の大好きな、目じりを下げた穏やかな笑み。


 犬とか猫とか、動物を見るような眼差しで、私を眺めている。

 そのままの眼差しで、彼が言った。


「俺、迷惑だとは思っていないから」

「…………?」

「駅で待たれるの、嫌じゃないっていう意味」


(嫌じゃ、ない?)


 頭の中で、もう一度繰り返す。意味を理解して、頬が熱くなってきた。恥ずかしさ紛れに、つい軽口を叩きたくなるけど、我慢。


「そんなこと言ったら、井沢さんが出かける日、いつも待っちゃうよ?」

「いいよ」

「!?」

「ずっと詰めっきりだから、毎日通ってるけど」

「そうなんだ。相変わらず、忙しいんだね」

「うん。――で、毎日待てる?」


 からかってる?

 楽しんでる??


 ああ。私、どうしようもないバカだ。彼から“待ち伏せ”の許可が下りて、すごく喜んでる。


「待っていて欲しいなら、待っていてあげる」


 自分に自信なんて無いのに、一度でいいから、頷いて欲しいとか思ってる。

 井沢さんは、一度頷く。


「うん。明日も待っていて」


 悔しいくらいに、完璧な笑顔を向けてくれた。

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