俺に任せろ
「脱会したいの!」
思い切って、ストレートな言葉で伝えてしまった。
沈黙が流れる。
私は、井沢さんの言葉を待った。彼の表情からは、何も伝わってこない。怒りも感じない。
私が言った言葉が、理解できていないようにも見える。
腕組みをして、窓際に凭れる。
「……なにか、あった?」
長い沈黙の後、井沢さんは短く返す。瞳の奥からは、何も読み取れないけれど、その目は真っ直ぐに私を見ている。
脱会の機会は、いくらでもあったはず。それを、今になって言うということは、私の身に何かがあったのだと、彼は感じたらしい。
怒っているとは違う、探るような眼差し。
もう、ここまでハッキリと言ってしまったんだから、今さら隠すことは何もないはず。親のことは言わず、成田さんのことで困っていることだけを伝えた。
これまで彼に言わなかった、休みの度に家に来ることや、電話もひっきりなしなこと。そして、私が活動に参加しないから、井沢さんが困っていて、代わりに誘いに来ていること。
「私も、もう限界で。だから、脱会を――……」
「アイツら、そんなこと言ったのか!?」
言葉を遮った声は、聞き慣れた井沢さんの声ではない。
背筋が凍りつく、威圧感のある声。私は、圧倒されて頷いた。
「いつからだ? 直接来るようになったのは」
掴みかかる勢いで、彼が迫ってくる。
何か、いけないことを言ってしまったのだろうか?
「もう、ずっと前から。一時期はなかったけど、急に増えだしてきて。昨年の終わり頃から、ずっと……」
そう答えると、彼は記憶を辿っているような様子で、険しい顔のまま黙ってしまう。そして、もう一度、私に確認した。
「俺がどうだとか、言っていたんだな?」
「うん」
頷いた私を見て、彼は確かに呟いた。
“カッテナコトヲ シヤガッテ”
その表情に、身動きが取れなくなる。氷のように冷たい眼差しに、どこまでも低くて威圧感のある声。怒りの感情を閉じ込めている。
上手く息が継げない。
上ずりそうになる息をのみ、彼の怒りが収まるのを待った。
井沢さんに勧誘をされた日、初めて彼の怖い顔を目にした。偶然に教会で見かけたときも、感情の読めない表情で、怖さを感じたこともある。
けれど、今、会議室で目にしている彼の表情は、その比ではないくらいに険しくて、泣きたいくらいに怖かった。
「ごめんなさい」
無意識に呟いていた。怖さのあまり、出てしまった言葉。
ハッとした様子の井沢さんが、私に顔を向けた。彼から視線を外せずにいた私と、すぐに視線が合う。
「お前は、何も悪くないよ」
私の言葉をすぐに否定して、表情を作った。
いつもの彼が戻ってきたような気がして、それだけで、鼓動が少しずつ落ち着いてくる。
「もう、大丈夫だから。全部、俺に任せろ」
(もう、大丈夫? どういう意味なんだろう……)
何の根拠があって、大丈夫なのか? 意外な言葉に、じっと彼を見つめてしまう。
安心させるように、彼が笑みを浮かべている。さっきの怖い表情が、もうどこにも見当たらない。
「ホントに? 電話とか、なくなるの? そんなこと出来るの?」
「任せろって言っただろ」
縋るように訴える私に、井沢さんは頷いた。
確かな理由などない。でも、本当に解決出来るのかもしれない。
「俺に任せなさい」
念を押すように言って、私の頭に手を置いた。




