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逢瀬は、プラットホームで。  作者: 椎名美雪
第四章
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俺に任せろ

「脱会したいの!」


 思い切って、ストレートな言葉で伝えてしまった。

 沈黙が流れる。

 私は、井沢さんの言葉を待った。彼の表情からは、何も伝わってこない。怒りも感じない。

 私が言った言葉が、理解できていないようにも見える。

 腕組みをして、窓際に凭れる。


「……なにか、あった?」


 長い沈黙の後、井沢さんは短く返す。瞳の奥からは、何も読み取れないけれど、その目は真っ直ぐに私を見ている。

 脱会の機会は、いくらでもあったはず。それを、今になって言うということは、私の身に何かがあったのだと、彼は感じたらしい。


 怒っているとは違う、探るような眼差し。

 もう、ここまでハッキリと言ってしまったんだから、今さら隠すことは何もないはず。親のことは言わず、成田さんのことで困っていることだけを伝えた。


 これまで彼に言わなかった、休みの度に家に来ることや、電話もひっきりなしなこと。そして、私が活動に参加しないから、井沢さんが困っていて、代わりに誘いに来ていること。


「私も、もう限界で。だから、脱会を――……」

「アイツら、そんなこと言ったのか!?」


 言葉を遮った声は、聞き慣れた井沢さんの声ではない。

 背筋が凍りつく、威圧感のある声。私は、圧倒されて頷いた。


「いつからだ? 直接来るようになったのは」


 掴みかかる勢いで、彼が迫ってくる。

 何か、いけないことを言ってしまったのだろうか?


「もう、ずっと前から。一時期はなかったけど、急に増えだしてきて。昨年の終わり頃から、ずっと……」


 そう答えると、彼は記憶を辿っているような様子で、険しい顔のまま黙ってしまう。そして、もう一度、私に確認した。


「俺がどうだとか、言っていたんだな?」

「うん」


 頷いた私を見て、彼は確かに呟いた。


“カッテナコトヲ シヤガッテ”


 その表情に、身動きが取れなくなる。氷のように冷たい眼差しに、どこまでも低くて威圧感のある声。怒りの感情を閉じ込めている。


 上手く息が継げない。

 上ずりそうになる息をのみ、彼の怒りが収まるのを待った。


 井沢さんに勧誘をされた日、初めて彼の怖い顔を目にした。偶然に教会で見かけたときも、感情の読めない表情で、怖さを感じたこともある。


 けれど、今、会議室で目にしている彼の表情は、その比ではないくらいに険しくて、泣きたいくらいに怖かった。


「ごめんなさい」


 無意識に呟いていた。怖さのあまり、出てしまった言葉。

 ハッとした様子の井沢さんが、私に顔を向けた。彼から視線を外せずにいた私と、すぐに視線が合う。


「お前は、何も悪くないよ」


 私の言葉をすぐに否定して、表情を作った。

 いつもの彼が戻ってきたような気がして、それだけで、鼓動が少しずつ落ち着いてくる。


「もう、大丈夫だから。全部、俺に任せろ」


(もう、大丈夫? どういう意味なんだろう……)


 何の根拠があって、大丈夫なのか? 意外な言葉に、じっと彼を見つめてしまう。

 安心させるように、彼が笑みを浮かべている。さっきの怖い表情が、もうどこにも見当たらない。


「ホントに? 電話とか、なくなるの? そんなこと出来るの?」

「任せろって言っただろ」


 縋るように訴える私に、井沢さんは頷いた。

 確かな理由などない。でも、本当に解決出来るのかもしれない。


「俺に任せなさい」


 念を押すように言って、私の頭に手を置いた。

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