脱会
食欲もなく、睡眠も充分にとれない。落ち込んだ様子の私を、友達は心配してくれる。すごく申し訳ない。
話を聞いて、一緒に泣いてくれる友達。
そんな友達の姿に、“早く元気にならないと”決意のようなものが芽生えた。
残業続きだった、例の仕事は無事に終わり、定時に戻れる日が戻ってきた。
残業から解放されたとあって、井沢さんは直ぐに帰るはず。その前に、話をしなくては…。
「井沢さん。ちょっと――相談というか、話があるんだけど」
定時の少し前に、周囲を見計らって声を掛けた。
私がそんな風に、話を持ちかけるのは珍しいだけに、彼は“何事か”という目をした。
「うん、解った。今日? 急ぎ?」
そう聞き返した彼に、時間的な余裕が無いのは明らかで……
「うん。今日がいい。時間は取らせないから、会社でいいよ」
「じゃあ、仕事上がったら、会議室に行っていて。すぐに行くから」
表情を変えない私に、彼はひとつ頷いた。
会議室とは、二階フロアの奥。暗がりの廊下沿いに、小さめな会議室がふたつある。彼はそこを指していた。
*
人目を気にしながら、会議室に滑り込む。
悠長に椅子に座っていられず、窓から社有車の駐車場を見下ろした。正門に向かって歩いていく人の背中を見送りながら、何から……何をどう言おうか、迷いに迷っていた。
上手い話しの切り出し方が判らなくて、用意していた言葉を、頭の中で予行練習などをしてみる。
少しして、ドアがノックされた。
「おまたせ」
彼が微笑むと、ふと心が軽くなる。それは、ほんの一瞬だけど。
「どうした? 最近、元気ないし、どうしたのかと思っていたけど」
「うん。ゴメンね、忙しいのに呼び出して」
「それはいいから、何かあったのか?」
私を真似るように、窓辺に寄り掛かった。
顔を覗きこまれると、喉まで出かかった言葉が止まる。
「あの……。最近、なにか変ったこととか、あった?」
まずは、気がかりだったことを聞いてみた。
母の勢いだと、井沢さんに何かをしかねない。何処かで彼のことを調査するとか、こっそりと会社に電話をしてきていたとか。
「え? いや、別に。特には何もないけど」
「そう。ならいいんだけど」
何もないと聞いて、少し安心。それきり、また言葉が詰まってしまう。
私の様子がおかしいことに、彼も気付いている。
「どうしたんだよ」
言うなら、今がチャンス。今しかない。自分で、終わらせないといけない。
「私、教団をやめたいの。行かないとかじゃなくて、やめたいの。脱会したいの!」




