表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逢瀬は、プラットホームで。  作者: 椎名美雪
第四章
PR
100/108

親の不信感

 連日の残業で、グッタリしていた私。とりあえず、食事は簡単に済ませて、お風呂に入ったらすぐに眠りたい。


 無駄なことは考えたくなくて、普段通りに家の玄関を開けた。


「ただいまー」


 私はいつもと変わらないけれど、どうも様子がおかしい。父と母が、リビングのテーブルで深刻な顔をしている。


“どうしたの?”と聞く間もなく、母が私を呼びつけた。


 何事か……リビングに入った瞬間、テーブルの上に置かれている物に気付いた。

 そこにあるのは、最初に教会に行ったときに貰った、教典と祈りを捧げるためのアイテム。


 これは、私の部屋の、引き出しの奥にしまってあったはず。


「これは何か、説明しなさい」


 怒りを押し殺す、母の声。私は言葉が見つからず、黙ってしまった。


 母は、私が子供の頃から過干渉な人で、何か心配事があると、私の部屋を徹底的に探っていた。

 いや。もしかしたら、普段から、私の部屋を見ていたのかもしれない。


(どうしよう……)


 何とか、逃げる言葉を探そうと黙る私に、もうひとつ、証拠を突きつけるように、テーブルに叩き付けた。


「この井沢って男が、関わっているの!?」


 母が叩き付けた物――それは、淳ちゃんと駅で見つけた、期限が切れた彼の定期券。

 私はそれを、なんとなく捨てられず、持ち帰っていた。

 私には、今まで男性の存在が身近になかったから、私の変化の原因が、その定期券の男のせいだと察したらしかった。


「アンタ、この男に誘われて、宗教に入ったの!?」


 そう言った後、母の怒りは収まらない。


「よく電話してくる女とか、家に来る女とかも、宗教なの!? お母さんから話をするから、この男に電話をしなさい」


 電話の子機を手にして、私に突き出す。母は昔から暴力に出る人だったから、抵抗をしない私を殴った。


「電話番号なんて知らない!」

「家の番号くらい、知ってるんでしょ!?」

「知らないよ!」

「じゃあ、明日、会社に掛けてやる」

「ちょっと、止めてよ! 会社になんて、掛けないで!!」

「お母さん、この男に一言言わないと、気が済まない!」

「お願いだから、止めて! 井沢さんは関係ないから!!」


 懸命に訴えるけれど、怒り狂っている母には、私の声が届かない。何かを思いついたような顔で、私を見ている。


「アンタまさか……最近、残業だとか言って、本当は宗教に行っているんじゃないでしょうね!?」


 母がこうなってしまうと、私の手には負えない。

 発狂する母。


 もしかしたら、母は“心の病”を持っていたのかな。今となれば、そう思えるけれど、当時は恐怖そのものだった。


 散々喚いて、殴って、泣いて。

 感情を抑えられない母は、容赦なく私を責め立てた。物で殴られることも、子供の頃から普通にあった。


 でもそれは、普通のことじゃないんだよね。


 父は、そんな母をどう思っているのか知らないが、昔から母の気が済むまで放っていた。


 私はもう、教会には行っていないし、そもそも信じてもいない。何も関わっていないこと、その教典なども捨てて構わないことを、何度も何度も言って聞かせた。


 でも、それで済むような母ではない。


「その宗教から抜けたという、証拠を持ってきなさい」


 そんなの、無理だよ。

 証拠って何?

 どうすれば、納得してもらえるの?


 何もかもに疲れ果てた。母から解放された時には、もう深夜を過ぎていた。


(助けてよ、井沢さん――……)


 もう、私の味方なんて、誰もいないような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ