第7話 話を聞いてみよう
エリーセが椅子を引く。
「座る?」
「はい」
アリアが席へつく。
そして、ようやく気づいた。
エリーセの腕の中。
青いもの。
「…………」
サメちゃんと目が合う。
「エリーセ」
「何?」
「それ……」
「使い魔」
「…………」
サメちゃんが片方のヒレをアリアに向かって上げた。
「…………」
アリアの目が大きくなる。
サメちゃんがヒレを振る。
「え~っ!?」
酒場中に声が響いた。
「可愛いぬいぐるみ!!」
「声大きい」
アリアはもう聞いていなかった。
エリーセの腕からサメちゃんを受け取る。
「何ですかこの子!?」
「だから使い魔」
「動きましたよ!?」
「動くわ」
「挨拶しました!」
「たぶん」
「可愛い!」
抱き締める。
「ちょっと」
「柔らかい!」
さらに抱き締める。
サメちゃんの両ヒレが横へ広がる。
アニカが腹を抱えて笑った。
「はははっ! お前までそれか!」
「だって可愛いじゃないですか!」
「騎士団副団長どこ行ったんだよ!」
「今は勤務外です!」
「便利だな!」
アリアはサメちゃんを膝に乗せた。
頭を撫でる。
ヒレを触る。
頬を寄せる。
サメちゃんが首を傾げる。
「首傾げました!」
「そういうこともするわ」
「エリーセ、何で今まで教えてくれなかったんですか!」
「最近来たのよ」
「連れて帰りたいです」
「駄目」
即答だった。
「まだ何も言ってません!」
「言ったでしょう」
アリアがサメちゃんを抱き締めたまましょんぼりした。
「……駄目ですか」
「駄目」
「一晩だけ」
「駄目」
「抱いて寝るだけです」
「私がやってるから駄目」
一瞬。
沈黙。
アニカがにやりとした。
「へえ」
エリーセがアニカを見る。
「何」
「いや?」
「何よ」
「別に?」
アリアもエリーセを見る。
エリーセは酒杯を取った。
「……食べましょう」
それからしばらく三人で食事をした。
正確には、三人と一匹。
サメちゃんはほとんどずっとアリアの腕の中だった。
食事が終わり、酒場の客も少なくなった頃。
アリアの様子が変わった。
声を落とす。
「……二人とも」
エリーセとアニカが見る。
「少し、真面目な話をしてもいいですか」
アニカの笑みが消える。
「何だ?」
アリアは周囲を見る。
近くに人がいないことを確認する。
サメちゃんを抱いたまま、さらに声を小さくした。
「さっきの件ですが…最近、教団がおかしいんです」
エリーセは黙って聞く。
「前から……少しずつではありました。でも、このところ急に」
「何が?」
「魔女を良く思っていません」
アニカの目が細くなる。
「今さらか?」
「以前は違いました。少なくとも聖騎士団は、種族や出身より、人を守ることを優先していました」
アリアは俯く。
「でも最近は、説教の内容も変わっています」
「どんなふうに?」
「古い魔法。異端の術。魔女。魔族との関係」
アリアが言葉を選ぶ。
「そういうものを、まとめて危険視する声が強くなっています」
アニカが鼻で笑う。
「分かりやすいな」
「笑い事じゃないです」
「分かってる」
アリアは続ける。
「さっきの兵士たちも、以前ならあんな態度は取らなかったはずです」
エリーセは酒杯を見つめる。
「上から何か出ているの?」
「分かりません」
「分からない?」
「正式な命令ではありません」
アリアが答える。
「少なくとも、私には何も来ていません。でも……空気が変わっています」
沈黙。
アリアはサメちゃんの頭を撫でる。
「二人とも」
顔を上げる。
「この国を出た方がいいと思います」
アニカの眉が上がる。
エリーセは動かない。
「あなたは?」
エリーセが聞いた。
アリアは少し笑った。
「私は残ります」
「危ないわよ」
「分かっています」
「だったら」
「人々を見捨てられません」
アリアの声は静かだった。
「私は、人を守る騎士になりたくて聖騎士団に入りました」
サメちゃんを抱く腕が少しだけ強くなる。
「教団のためじゃない」
「…………」
「まだ、内部から変えられるかもしれません」
アニカがしばらくアリアを見る。
「頑固だな」
「よく言われます」
「死ぬなよ」
「あなたも」
エリーセは何も言わなかった。
やがて。
「分かった」
それだけ言った。
アリアがエリーセを見る。
「明日、戻ったら準備する」
「……はい」
「忠告ありがとう」
アリアは少しだけ安心したように息を吐いた。




