第6話 酒場に行ってみよう
酒場は混んでいた。
木製のテーブル。
大声。
食器の音。
酒の匂い。
エリーセとアニカは向かい合って座った。
サメちゃんはその間、椅子の上。
テーブルに顔だけ出している。
「飲むか?」
アニカが酒杯をサメちゃんへ寄せる。
「飲ませないで」
「飲むかもしれねーだろ」
「布よ」
「吸うかもしれねえ」
「余計駄目でしょう」
サメちゃんが首を傾げる。
「ほら、興味あるって」
「ないわよ」
料理が来る。
エリーセとアニカが食べる。
サメちゃんは眺めている。
アニカが肉を一切れ見せる。
「食う?」
サメちゃんが首を傾げる。
「やっぱ食わねえか」
「だからぬいぐるみよ」
「でも魔法撃つぞ」
「それは私も説明できない」
アニカが笑う。
その時、隣のテーブルからわざとらしく声が聞こえる。
「……魔女か」
エリーセの手が止まる。
聖騎士団の兵士。
数人。
酒が入っている。
一人がこちらを見ていた。
「黒髪に青い目」
別の兵士が笑う。
「分かりやすいな」
アニカが酒杯を置く。
「何か用か?」
「別に」
兵士が言う。
「ただ」
立ち上がる。
「この街も随分と寛容になったと思ってな」
エリーセは静かに見る。
「座って飲んでいれば?」
「命令するのか?」
「提案よ」
「魔女風情が」
アニカの眉が上がる。
「おい」
エリーセが小さく言う。
「まだ」
「分かってるよ」
兵士がさらに近づく。
「その妙なものも何だ?」
サメちゃんを見る。
「呪われてるんじゃないのか?」
アニカが笑った。
ただし。
さっきまでとは違う笑いだった。
「やめといた方がいいぞ」
「何?」
「そいつ怒らせると街ごとなくなる」
兵士たちが笑う。
「脅しか?」
「忠告」
エリーセが立つ。
「もうやめましょう」
「逃げるのか?」
兵士が手を伸ばす。
その瞬間。
青い光。
エリーセとアニカが同時に下を見る。
サメちゃんの頭上。
小さな魔法陣。
一つ。
二つ。
「…………」
エリーセの顔色が変わる。
「サメちゃん」
三つ。
「待って」
アニカも青ざめる。
「おいおいおい」
四つ。
五つ。
二人同時にサメちゃんへ飛びついた。
エリーセが抱える。
アニカが口元を押さえる。
「撃たない!」
「ここでそれは駄目!」
サメちゃんが首を傾げる。
「街よ!?」
「酒場ごと消し飛ぶだろ!」
サメちゃんがもう一度首を傾げた。
「分かってない!」
「絶対分かってねえ!」
エリーセがその頭を両手で挟む。
「攻撃しなくていいの」
こくり。
一つ。
また一つ。
魔法陣が消えていった。
二人は同時に息を吐いた。
アニカが額を拭う。
「……こいつ、前より気軽に撃とうとしてねえか?」
エリーセはサメちゃんを見る。
「気のせいだと思いたいわ」
「何の騒ぎです!」
入口からよく通る声。
酒場が静かになる。
銀と濃紺の装飾。聖騎士団の上級装備。
亜麻色の長髪に白いヘッドドレス。
アリアが立っていた。
「副団長……」
兵士たちの顔色が変わる。
アリアは髪と同じ色の目を細め状況を見る。
兵士。
エリーセ。
アニカ。
抱えられた…サメ?
そして、散らかった椅子。
「説明してください」
兵士が何か言おうとする。
だが、アリアの顔を見て。
…黙る。
「勤務外であっても、あなた方は聖騎士団の名を背負っています」
「しかし」
「彼女たちは私の友人です」
アリアの声が低くなる。
「それ以前に、市民に絡む理由などありません」
沈黙。
「今日は戻りなさい」
兵士たちは不満そうな顔をした。
それでも副団長に逆らう者はいなかった。
次々と酒場を出ていく。
アリアは深く息を吐いた。
そしてエリーセたちへ向き直る。
「申し訳ありません」
「あなたが謝ることじゃないわ」
エリーセが言う。
アニカも肩をすくめる。
「まあ、殴る前に終わったしな」
「殴るつもりだったんですか?」
「当然」
アリアが頭を抱える。
「もう……」




