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第5話 接客してみよう

昼過ぎ。

城壁が見えてきた。


大きい。

草原の向こうに石の壁が横へ長く続いている。


国内でも有数の大都市。

門前には荷車。

商人。

旅人。

兵士。

人の流れが絶えない。


「相変わらず混んでんな」

アニカが言う。


エリーセはサメちゃんを抱き直した。

「迷子にならないで」

「誰に言ってんだ?」

「両方」

「ひでえな」


門をくぐる。

街の中はさらに騒がしかった。

石畳。

露店。

馬車。

呼び込み。

香辛料と焼いた肉の匂い。

遠くには、大きな鐘楼。


そして白い石造りの建物。

ソヴェリア教団の支部。

高い場所に教団の紋章が掲げられている。

その周辺には聖騎士団の兵士も多い。


アニカがそちらをちらりと見る。

「増えたな」

「何が?」

「教団の旗」


エリーセも見る。

確かに以前より目につく。


「そうね」

それ以上は言わなかった。


二人は広場へ向かった。


広場の一角。

エリーセは布を敷き薬瓶を並べた。


手書きの値札と簡単な効能。

…準備完了。


「じゃ、あたし遊んでくるわ」

アニカが言う。


「手伝わないの?」

「遊びに来たんだぞ?」

「そうだったわね」

「夕方ここな」

「分かった」


アニカは人混みへ消えた。

エリーセは座る。

その隣にサメちゃんも座る。


「あなたも店番よ」


頷く。


エリーセは自分の魔女帽子を脱いだ。

そして少し考え。

サメちゃんの鼻先に乗せた。

帽子が大きすぎて目の辺りまで隠れる。


「…………」

エリーセの口元が緩む。


サメちゃんが首を傾げる。

帽子も傾く。

「ふふ」


通りかかった女性が足を止めた。

「あら」


さらに子供が一人。

「お母さん! サメ!」

「本当ね」


エリーセが帽子を少し上げる。

サメちゃんが片方のヒレを上げた。


子供の顔が明るくなる。

「動いた!」


サメちゃんが手を振るようにヒレを振る。

「かわいい!」


すぐに人が集まり始めた。

「これ、ぬいぐるみ?」

「使い魔です」

エリーセが答える。


「触っても?」

「乱暴にしなければ」

女性がサメちゃんの頭を撫でる。


サメちゃんは動かない。


子供がヒレを握る。

サメちゃんがもう片方のヒレを上げる。

笑い声。


「お薬屋さんなの?」

「ええ」

「傷薬ある?」

「あります」


一人が薬を買う。

また一人。


サメちゃん目当てで立ち止まった者が。

そのまま薬を眺め買っていく。

昼を過ぎる頃には瓶の数が目に見えて減っていた。


「……あなた」

エリーセは隣を見る。


サメちゃんが通行人へヒレを振っている。


「客寄せ上手ね」


サメちゃんが頷く。


「分かってやってるの?」


首を傾げた。


「……でしょうね」


夕方、最後の一本が売れた。

「ありがとうございました」

客が去る。


エリーセは空になった箱を見る。

「全部売れた……」


サメちゃんが両ヒレを上げる。

エリーセはその頭を撫でた。

「あなたのおかげね」


サメちゃんが両ヒレを合わせる。

すりすり。

「それ、本当に何なの?」



「売れたか?」

片付けをしていたらアニカが戻ってきた。


両手には紙袋。

串焼き。

甘い菓子。

どこかで買った小物。


「全部」

「早っ」

「サメちゃんのおかげ」

「商売までできんのか、こいつ」


アニカがしゃがむ。

サメちゃんが片方のヒレを上げる。


「よう」

アニカも手を上げた。


「じゃ、飯だな」

「あなた遊んでいただけでしょう」

「街に来たら遊ぶもんだろ」

「薬を売るものよ」

「魔女それぞれだな」


三人は酒場へ向かった。

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