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第15話 1週目の結末

数日後。

都市から遠く離れた街道を、遠征帰りの聖騎士団が進んでいた。

その先頭に指揮官のアリアがいた。


馬上から遠くを見る。

空が黒い。

煙。


「……あれは」


後方から騎士が馬を寄せた。

「副団長!」

「都市が魔物に襲撃されています!」


アリアの顔色が変わる。

「急ぎます!」


隊列が速度を上げた。



城壁だった場所は崩れている。

門はない。

塔も折れている。

街は焼けていた。

石。

瓦礫。

燻る火と煙。


アリアは馬を止めた。

周囲の騎士たちも言葉を失っている。


「……そんな」

アリアが馬から降りる。


一歩。

また一歩。


人が倒れ焼け焦げている。

たくさん。

教団支部も半分崩れている。

通りそのものがなくなっている場所もある。


遠征軍の兵士の中には、膝をつく者がいた。

名前を呼ぶ者。

顔を覆う者。


その時。

煙の向こうから、何かが近づいてきた。

小さい影。


「構えろ!」

騎士たちが武器を構える。

剣。

槍。

弓。

アリアも剣を抜き大盾を構えた。


煙が流れ――影が姿を現す。

青。

白。

ほとんど黒く汚れている。

布は焼け、縫い目は裂け、何か所も綿が出ている。


アリアの剣先が、ゆっくりと下がった。

「……サメちゃん?」


サメちゃんは遠巻きに足を止めた。


そして、いつものように。

片方のヒレを上げた。


アリアの顔が歪む。

「……サメちゃん」


一歩。

前へ出る。

後ろの騎士が叫ぶ。

「副団長!」


アリアは片手を上げた。

「待ってください」


剣を下ろす。

「私です」


さらに一歩。

「アリアです」


サメちゃんは、片方のヒレを上げたままアリアを見る。

「分かりますよね?」


風が吹く。

煙が流れる。

アリアの目に涙が浮かんだ。


「何があったんですか」

返事はない。


「エリーセは?」

サメちゃんは動かない。


アリアの声が少しだけ震える。

「アニカさんは?」


その時、サメちゃんの背後の空間に青い光が灯った。

一つ。

魔法陣。


アリアが止まる。


二つ。

五つ。

十。

さらにその後ろ。

空を覆うほど大量の魔法陣が形成されていく。


――殲滅級魔法。


兵士たちがざわめく。

「副団長!」

「アレが魔物です!」

「命令を!」


アリアは、しばらくサメちゃんを見ていた。

やがて。

サメちゃんが上げていたヒレを下ろした。


アリアの頬を涙が流れる。

「……手遅れ、なんですね」


剣を構える。

大きく息を吸う。


サメちゃん。

大量の魔法陣。

背後の焼け落ちた都市。


アリアが剣を掲げた。

「聖騎士団!」


声は少しだけ震えている。

「突撃!」


騎士たちが駆ける。

アリアも先頭へ走り出した。


サメちゃんの口元に、青い光が集まる。


――世界が白く染まった。



風だけが、焼け焦げた荒野を流れていた。

土。

鎧。

剣。

黒く焼けた死体。


その中央。

アリアが膝をついている。


鎧はほとんど壊れていた。

額。

頬。

口元の血。

その腕の中にサメちゃん。

お腹から下はなく、はみ出た綿も焦げている。


「ごめんなさい」

小さな声。


「ごめんなさい……」

サメちゃんの頭へ頬を寄せる。


「ごめんなさい」

サメちゃんへなのか、エリーセとアニカへなのか、それとも兵や街の人々か。

誰に言っているのか分からない。


「私が……」

声が止まる。


「もっと早く……」


息が震える。

「ごめんなさい……」


サメちゃんの視界が、端から暗くなっていく。

アリアの顔もぼやける。


一つだけ。

青白くはっきりと表示されている。

『 転移特典(1) 』


『 continue start over?

   YES   →NO   』


サメちゃんのヒレは、ほとんど動かない。

それでも。

わずかに。

……動く。


カーソルを一つ、左へ。


『 continue start over?

  →YES    NO  』


――暗転。



青白い光が消える。

石造りの地下室。

足元には巨大な魔法陣。


「…………え?」


正面には。

長い黒髪と青い瞳。

杖を持ち困惑した顔の――エリーセ。

サメちゃんは。

両ヒレを勢いよく、ぱたぱた動かす。

「え……攻撃?」


……そしてその視界の端には、青白い文字が浮かんでいた。


『 ステータス

  名前:サメちゃん

  種族:リヴァイアサン

  Lv:5763

  HP:53823

  MP綿:45 / 30760

  スキル:

   ジャチメント・レイ

   上級水魔法

   綿補充(中)

   憤怒の支配者     』

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