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14/17

第14話 1週目の終わり

路地裏。

雨上がりの夜。

木箱。

泥。

ごみ。

その中へ、何かが投げ込まれた。


青いぬいぐるみ。

腹と背中に大きな穴。

綿はほとんど残っていない。

サメちゃんは動かなかった。


……そのまま夜が過ぎる。


朝。

昼。

夕方。

また夜。

ようやく、ヒレが僅かに動いた。

視界の端に文字が浮かぶ。


『 HP:3 / 73

  MP綿:2 / 46

  綿補充(小)  』


数字が少しずつ増えていく。

2。

3。

4。


サメちゃんは体を起こした。


ぺしゃんこ。

穴。

泥。

汚れ。


一歩。

よた。

もう一歩。

よた。

路地を出る。


街の中心へ向かうにつれて、人が増えていた。


鐘の音。

兵士。

神官。

群衆。


誰も足元のサメちゃんには気づかない。

人々の間を抜ける。


ぺた。

ぺた。

ぺた。

やがて、広場へ出た。


木製の台。

柱。

磔。

黒い髪、青い瞳……エリーセ。


サメちゃんが止まる。


周囲では声が飛んでいる。

「異端の魔女!」

「ソヴェリア神に背いた者!」

「魔族に連なる者!」


神官が長い説教を続けている。

エリーセは何も言わない。

ただ、顔を上げていた。


鐘が鳴る。

兵士が動く。

群衆が静まる。

そして。

――処刑。


サメちゃんは、その場に立ったまま動かなかった。


しばらくして。

向きを変える。

来た道を戻る。


ぺた。

ぺた。

ぺた。

路地裏。

同じ場所。

サメちゃんは、そこで倒れた。



何日か過ぎた。

雨。

風。

埃。


青い布は黒ずみ、縫い目も少しずつ解れ始めている。

補充された綿は、腹の穴からまた少しずつ零れていく。


夜、遠くで怒声が上がった。

「いたぞ!」

「逃がすな!」

「吸血鬼だ!」


走る音。

一人の女が路地へ飛び込んでくる。


紫がかった髪。

赤い瞳。

黒と深紅の衣装。

ロナ。


肩、腕、脇腹。

何か所も負傷していた。


片手には、赤く輝く宝珠。

暗い路地の壁が、その光に照らされる。


「……本当にしつこいですわね」


遠くから騎士の声。

「宝玉を取り戻せ!」

「この辺りだ!」


ロナは辺りを見回す。

木箱。

袋。

樽。

――サメのぬいぐるみ。


少しだけ動きを止めしゃがむ。


汚れたぬいぐるみの頭を、指先で撫でる。

「ごめんなさいね…」


サメちゃんの腹に空いた穴。

そこへ赤い宝玉を押し込む。

綿の奥まで、布を寄せる。


「少しだけ、借りますわ」

ロナは立ち上がり、路地の奥へ走り去った。


しばらく何も起きない。


……サメちゃんの腹が赤く光った。


一度。

二度。


視界に文字が浮かぶ。

『 UNKNOWN ITEM DETECTED 』


赤い魔力が綿へ染み込んでいく。

MP綿:7 / 46


数字が跳ねる。

MP綿:46 / 46


さらに。

MP綿:87 / 46

MP綿:214 / 46

MP綿:591 / 46


画面が乱れる。

『 LIMIT ERROR 』


赤い魔力が、サメちゃんの体から溢れ出した。


しぼんでいた布が持ち上がる。

穴の開いた解れた身体を中の綿が無理やり形を取り戻していく。


サメちゃんは立ち上がった。


そして、ロナが消えた方向へ歩き始めた。


大通りの石畳。

流れる血。

途中で倒れた騎士。


その先で、聖騎士団が何かを囲んでいる。


ロナは壁にもたれ、血を流している。


一人の騎士が剣を振る。


ロナの体が崩れた。

……動かなくなる。


「……何だ?」

一人の騎士がこちらに気づいた。


路地から、サメちゃんが出てくる。

身体からは赤い魔力。


「魔物か?」

剣が向けられる。


サメちゃんはロナの方を向いた。

そのまま、動かない。


騎士たちが警戒する。


サメちゃんを包んでいた赤い魔力が、ゆっくりと青へ変わっていく。


頭上に一つ、また一つと魔法陣が開いた。


五つ。

十。

さらに増える。


騎士たちが一斉に身構えた。

「構えろ!」


魔法陣は空間を埋めるほどに増えていく。


「撃て!」

矢と魔法。

剣を構えた騎士たちが駆ける。


サメちゃんの口が輝いた。


青白い光が収束する。


次の瞬間、大通りが光に飲まれた。


轟音。


騎士たち。

その背後の建物。

壁。

塔。

すべてが一本の閃光の中へ消え…静かになった。


視界に文字が浮かぶ。

『 LV UP! 』


すぐに、また。

『 LV UP! 』


遠くで警鐘が鳴り始めた。

「襲撃!」

「魔物だ!」

「聖騎士団を集めろ!」


次の通りから兵士たちが現れる。


サメちゃんは瓦礫の間を進み、騎士の群れを見つけるたびに足を止めた。

そのたびに、青い光とが灯り魔法陣が展開される。


青白い閃光。


爆発。


崩れる建物。

吹き飛ぶ石畳。


『 LV UP! 』


また別の通り。

神官。

魔術師。

兵士。

魔法陣。

光。


『 LV UP! 』


石造りの家が崩れ落ちる。

塔が折れる。

街路が焼ける。

火が広がる。

……サメちゃんは進む。


敵が現れる。

止まる。

魔法陣が開く。

撃つ。

…また進む。


『 LV UP! 』


さらに。

『 LV UP! 』


さらに。

『 LV UP! 』


視界の端で、数字が次々に書き換わっていく。

HP。

MP綿。

レベル。

スキル。

初級水魔法

↓

中級水魔法

↓

上級水魔法


そして。

『 新スキル獲得! 』


その直後。

街の上空を魔法陣と巨大な青い閃光がいくつも横切った。

城壁の一部が、音を立てて崩れ落ちた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

初作品なので感想など教えてもらえると、とても励みになります。

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