第11話 Lv:4
しばらく後、酒場の扉が開いた。
銀と濃紺の装備。
亜麻色の美しい髪に白いヘッドドレス。
アリア。
「エリーセ?」
「あら」
「やっぱり!」
アリアが近づく。
「久しぶりです!」
「久しぶり」
アニカが片手を上げる。
「よう」
「アニカさんも」
アリアが椅子へ座ろうとして。
――止まった。
「…………」
サメちゃんを見る。
サメちゃんもアリアを見る。
「エリーセ」
「何?」
「それは……?」
「使い魔」
「…………」
サメちゃんが片方のヒレを上げた。
アリアに向かってヒレを振る。
「…………」
アリアの目が大きくなる。
「え~っ!?」
周囲が振り向く。
「可愛いぬいぐるみ!!」
すぐに抱き上げられた。
「何ですかこの子!」
「サメちゃん」
「サメちゃん!」
ぎゅっ。
「柔らかい!」
さらに。
ぎゅっ。
「動く!」
頭を撫でる。
ヒレを持つ。
頬を寄せる。
「可愛い!」
アニカが笑う。
「副団長どこ行ったんだよ」
「今は勤務外です!」
サメちゃんが首を傾げる。
「首傾げました!」
「するわよ」
「可愛い!」
エリーセが料理を食べる。
アニカが酒を飲む。
アリアはずっとサメちゃんを抱いていた。
食事が来ても、片腕で抱く。
飲み物を取る時も、膝に乗せる。
頭を撫でる。
「連れて帰っていいですか?」
「駄目」
エリーセが即答する。
「一晩だけ!」
「駄目」
「ちゃんと返します!」
「駄目」
「一緒に寝るだけです!」
「私が一緒に寝てるから」
アリアが止まる。
アニカも止まる。
二人がエリーセを見る。
「…………何」
アニカがにやにやする。
「別に?」
アリアがサメちゃんを抱いたまま。
「毎晩ですか?」
「……何でそこを聞くの」
「毎晩なんですか?」
エリーセは酒杯を取った。
「食べなさい」
アニカが吹き出した。
「はははっ!」
サメちゃんがアリアの腕の中で両ヒレをぱたぱたさせた。
夜。
三人で街を出る。
途中まで同じ道を歩いた。
城門の外、アリアがサメちゃんを抱いたままなかなか返さない。
「アリア」
「はい」
「サメちゃん」
「はい」
「返して」
「…………」
「返して」
「……はい」
ようやくエリーセの腕へ戻る。
アリアが名残惜しそうにサメちゃんを見る。
「本当は、明日から遠征なんです」
「なんだ、じゃあしばらく留守なのかよ」
「そう…戻ったら連絡頂戴」
「遠征から戻ったら…また会いましょうね」
サメちゃんが片方のヒレを上げ振る。
アリアも手を振る。
「絶対ですよ!」
アニカが笑う。
「こいつに約束分かんのか?」
「分かります!」
「何で断言すんだよ」
三人は笑いながら別れた。
森の小屋へ戻る。
夜も遅い。
アニカは。
「今日は泊まってくわ」
と言って、勝手に客用の毛布を出した。
エリーセはサメちゃんを抱いて寝室へ向かう。
「疲れた?」
サメちゃんが首を傾げる。
「たくさん触られてたものね」
片方のヒレが上がる。
「嫌じゃなかった?」
サメちゃんが頷いた。
エリーセが少し笑った。
「そう」
ベッドへ入る。
サメちゃんを腕の中へ。
「今日はよく働いたわね」
頭を撫でる。
「おやすみ、サメちゃん」
灯りが消える。
窓の外。
森。
静かな夜。
サメちゃんの視界の端には、小さく文字が浮かんでいた。
『 Lv:4 』
それだけ。
しばらくして。
表示は消えた。
エリーセの腕の中でサメちゃんは動かなかった。
夜が静かに過ぎていった。




