第10話 初めての記憶
次の日。
森を抜ける。
エリーセの腕の中。
草原。
花。
風。
そして、ゴブリン数体。
エリーセがサメちゃんを地面へ下ろす。
「使い魔なら」
杖を片手にゴブリンを指した。
「少しくらい戦える?」
サメちゃんが首を傾げる。
「攻撃」
視界の端の文字。
『 初級水魔法 』
サメちゃんが両ヒレを上げる。
小さな青い光。
水が集まり丸くなる。
拳ほどの水球。
エリーセが目を細める。
「水魔法……?」
水球が飛んでゴブリンの顔へ当たる。
鈍い音。
ゴブリンが倒れる。
視界に文字が浮かんだ。
『 LV UP! 』
サメちゃんが文字を見る。
エリーセには見えていない。
「倒した……」
エリーセが駆け寄る。
サメちゃんを持ち上げた。
「すごいじゃない!」
頭を撫でる。
「ちゃんと戦えるのね!」
ぎゅっ。
抱き締められる。
その後、森の近く。
草原。街道沿い。
小さな魔物が出るたびにエリーセが指を差す。
「サメちゃん」
水球。
一体。
『 LV UP! 』
また一体。
『 LV UP! 』
サメちゃんの水球が少しずつ大きくなる、速くなる。
エリーセはそのたびに頭を撫で、抱き上げ。
「えらい」
「また強くなった?」
「ふふ、頼もしいわね」
と笑った。
ある日、視界にはこう表示されていた。
『 ステータス
名前:サメちゃん
種族:エリーセのぬいぐるみ
Lv:4
HP:73
MP綿:46
スキル:
初級水魔法
綿補充(小)
転移特典(1) 』
種族欄の文字が、いつの間にか変わっていた。
サメちゃんは画面を見た。
その向こうでエリーセが手招きしている。
「行くわよ」
画面は消えた。
サメちゃんは尾びれで地面を蹴った。
ぺた。
ぺた。
エリーセの方へ向かった。
さらに次の日。
玄関が叩かれた。
「よう! 遊びに来てやったぜ!」
扉の向こうから大きな声。
エリーセがため息をつく。
「朝からうるさいわね……」
扉を開ける。
黒髪。青い瞳。
オレンジリボンの大きな魔女帽子。
アニカ。
「元気か?」
「見れば分かるでしょう」
「相変わらず愛想ねえな」
アニカが中へ入る。
そして。
サメちゃんを見る。
「…………」
サメちゃんが片方のヒレを上げた。
「…………何だこれ」
「使い魔」
アニカがエリーセを見る。
「それ?」
「それ」
「…………」
アニカの顔が少しずつ崩れた。
「はっ」
そして。
「はははははっ!」
腹を抱える。
「何だよそれ!」
サメちゃんが首を傾げる。
「はははっ!何言ってるかわかんねーよ、こいつ!」
エリーセが眉を寄せる。
「笑いすぎ」
「いや無理だろ!」
アニカがしゃがむ。
サメちゃんの頬を指で押す。
へこむ。
「マジでぬいぐるみじゃねえか!」
サメちゃんが両ヒレをぱたぱたさせる。
「お、怒ったか?」
さらにぱたぱた。
「分かんねえ!」
また笑った。
三人で街へ向かう。
草原を抜け。
城壁をくぐる。
広場へ。
エリーセは薬を並べた。
アニカは。
「じゃ、あたし遊んでくる」
と言って消えた。
エリーセはサメちゃんを隣へ座らせる。
魔女帽子を取る。
鼻先へ。
ぽす。
「似合う?」
帽子が大きすぎる。
サメちゃんの目が半分隠れる。
首を傾げる。
帽子も傾く。
エリーセが笑った。
「動かないで」
通りかかった子供が止まる。
「サメ!」
母親も立ち止まる。
「ぬいぐるみ?」
サメちゃんが片方のヒレを上げる。
「動いた!」
子供が駆け寄る。
サメちゃんがヒレを振る。
「かわいい!」
人が集まる。
一人。
二人。
三人。
女性。
子供。
買い物途中の老人。
「触っていい?」
「乱暴にしなければ」
エリーセが答える。
頭を撫でられる。
ヒレを握られる。
子供が手を振る。
サメちゃんも振る。
その横で薬が売れる。
瓶が減る。
人が来る。
また売れる。
エリーセは時々、サメちゃんの帽子を直した。
「あなた、商売向きなのかしら」
サメちゃんが首を傾げる。
「……分からないわよね」
夕方。
薬はほとんどなくなっていた。
酒場。
エリーセ。
アニカ。
サメちゃん。
三人でテーブルを囲む。
アニカがサメちゃんを見る。
「食わねえの?」
首を傾げる。
肉を近づける。
サメちゃんは動かない。
「やっぱ食わねえか」
「ぬいぐるみだから」
「でも魔法使うじゃねえか」
「私にも分からないわよ」
「便利だな、その言葉」
アニカが笑う。
しばらくして。
隣の席。聖騎士団の兵士たち。酒に酔っている。
一人がこちらを見る。
「魔女か」
アニカの目が動く。
エリーセは食事を続ける。
「黒髪」
「青い目」
「二人もいるぞ」
アニカが酒杯を置いた。
「何だよ」
兵士が笑う。
「別に」
「だったら黙って飲んでろ」
「偉そうだな、魔女」
椅子が引かれ兵士が立つ。
エリーセも静かに立ち上がる。
「アニカ」
「分かってる」
兵士が手を伸ばした。
アニカがその手首を掴む。
捻る。
「いてっ!」
別の兵士が立つ。
エリーセが足を払う。
転ぶ。
三人目。
アニカの拳。
椅子ごと倒れる。
「おいおい!」
「こいつら!」
さらに二人。
数秒後には…床、テーブルに倒れた兵士たち。
アニカが手を払う。
「弱えな」
エリーセが座り直す。
「店を壊さないで」
「そっち?」
兵士たちは悪態をつきながら酒場を出ていった。
サメちゃんがその背中へ向かって、片方のヒレを振った。
アニカが吹き出す。
「見送ってんじゃねえよ!」




