8 これはこれで幸せかも
「直哉さんが無事成仏できてよかったです。それに、深雪さんも元気になってよかった。一樹さんって、本当に凄いんですね」
「凄くなんてないですよ。私は、自分にできるだけのことをしただけ」
「そうは言っても、死者の思いに真剣に耳を傾け望みを叶えようなんて、なかなかできることではないです!」
生きている人だって説得するのは難しいのに、死者ならなおさらではないか。
「これが私にしかできない使命だと思っているから」
本当に凄いと思っているのに、一樹はどこまでも謙虚な態度であった。もちろん、ここで一樹に自慢たっぷりにドヤ顔されたとしても、一樹を尊敬する気持ちには変わらない。
「一樹さんは、いつから霊が視える力を持つようになったんですか?」
きっと、こういった質問を何度もされ、答えてきたのだろう。それでも一樹は嫌な顔一つせず答えてくれた。
「物心ついた頃からですね。その頃から、人には視えないものが視え、聞こえないはずの声を聞き、会話をすることができました。この力のせいで、ずいぶんと気味悪がられたものですよ。それで悩んだこともありました。学校ではクラスの人たちにいじめられたことも」
「一樹さんを嫌う人がいるなんて信じられません! もし僕が一樹さんと同じクラスだったら、反対にいじめたそいつらをぶっとばしてやるのに!」
八尋は指をばきばきと鳴らす。
「こうみえて僕、腕には自信あるんですよ。空手をやってたから」
一樹はふふ、と笑う。
「その頃に八尋くんと出会えていたらよかったですね」
「じゃあ、これからは僕が一樹さんの味方をします。一樹さんを悪く言う奴がいたら、ぶっとばすのはまずいけど、僕が一樹さんを守ります!」
嬉しそうに微笑む一樹を見た八尋は、自分の発言に恥ずかしくなったのか突如顔を赤くした。
なんか好きな子に告白しているような気分だ。
八尋はぶるぶると首を振る。
「で、でも、そんなことがあっても、こうして人助けをしている一樹さんは、僕はすごいと思います」
って、僕、何を生意気なことを言ってんだ。それも顔を赤くして。
「ありがとう八尋くん。そう言ってもらえて私も安心です」
礼を言われた八尋は首を横に振り、本当のことだから、と小声でもごもご付け加える。
「さて、八尋くんお腹が空きませんか?」
「そういえば空いたかも」
「私たちもご飯を食べましょうか」
「もしかして、そのクリームぶり大根を食べさせてくれるとか?」
「食べたいですか?」
「もちろんです!」
八尋はカウンター越しにへばりつき、ぶり大根の鍋を覗き見る。
まるで犬が尻尾を振っているような姿を思わせた。
素直な八尋の反応に一樹は笑う。
「どうぞ、召し上がれ」
一樹は八尋の前にぶり大根を盛った器を置く。
「いただきます!」
手を合わせ八尋はさっそくぶり大根に飛びつく。
「うーん、うまい!」
「八尋くんは本当においしそうに食べてくれるから、私も嬉しいです」
「だって、本当においしいから。うわー、僕も初めてホワイトクリームのぶり大根を食べたけど、まじ、うまいですね! すっごくまろやかな口当たりです」
「八尋くん、炊き込みご飯もどうぞ」
八尋は目を輝かせ、おお! と歓喜の声を発する。
「僕、きのこの炊き込みご飯も気になっていたんですよ! いいんですか? 食べちゃいますよ。いただきます!」
と、ご飯を放り込みううん、と唸る。
がっつくようにご飯とぶり大根を食べ、八尋は改めて幸せを噛みしめる。
仕事を失って途方にくれて、どん底のさらに底にいたけれど、おかげでこの店に辿り着き一樹と出会えた。
「これはこれで幸せだったかも」
「うん?」
「いえ。おいしいご飯を食べるって、幸せだなって思って」
「八尋くん、おかわりもありますからね。遠慮せずに言ってくださいね」
「い、いいんですか?」
「もちろんです。それに、今回は八尋くんには手伝ってもらったから、お礼もかねて」
お礼もかねなくても、いつも美味しいご飯をたらふく食べさせて貰っているが。
「ありがとうございまーす! あの、一樹さん、俺なんかでよかったらいつでもお手伝いしますから何でも言ってください」
一樹さんのお手伝いならどんなことでもやります!
一樹は笑いながら、ありがとうと言った。
死者のこの世に残した思いを聞き遂げ、その手伝いをするのも悪くはないと八尋は思うようになった。
困っている人のために視える力を使うのは素晴らしいことだと。
一樹さんについて、こういう仕事をするのもいいな。
一樹さん、弟子とかとっていないのかな。
ふと、そんなことを考えるようになった。だが、今の自分は居候の身、いつまでもここにいるわけにもいかない。
早く次の就職先を見つけなければ。




