可愛い姉妹みたいな女の子たちは俺のアレを巡って一時休戦するみたいです……。
真奈美ちゃんの《《しっぽ》》の告白から端を発した私の過去への追想は終わりを告げる。自分でもびっくりするほど鮮明に自分の少女時代を思い返すことが出来た。
……初めて赤星家を訪れた日の記憶。そしてあの裏山の記憶。
どちらもキラキラと私の中で輝いていて、大切なモノをしまっておいたお菓子のブリキ缶みたいに私の胸の奥底で、誰かが蓋を開けてくれるのをひっそりと待っていたんだ……。
パコンと乾いた金属音を立ててから開く未祐の中の記憶のブリキ缶。
繊細な中身を壊してしまわぬように私はもう一度丁寧に蓋を閉めなおす。
……そして自分でも思いがけない言葉が口をついた。
「……真奈美ちゃん、今からでも遅くないよ。これから未祐に付き合ってくれない?」
「えっ、未祐ちゃん、それっていったい……!?」
「真奈美ちゃんがもっと元気なれる方法。いい考えが一つだけあるんだ……」
ショコラに対する真奈美ちゃんの想いは良く理解出来た。彼女が未祐ちゃんとお友だちにならと、特別に読ませて貰った亡き愛犬への手紙、
その手紙に書かれていた内容に私と千穂ちゃんは思わず涙を禁じえなかった……。
千穂ちゃんに至っては、号泣し過ぎて涙で顔をくちゃくちゃにしてしまうほどだった。人一倍涙もろいのは彼女の美徳のひとつでもある。
「う、ううっ!! 二宮先輩、私も子供のころからわんちゃん、ねこちゃんが大好きで、家にもお迎えしているんですが、家族同然なのは良く分かります。老犬のチワワがいるので先輩の気持ちは痛いほど理解出来ます。ショックで何も手につかなくなって当然ですよ……」
千穂ちゃんは本当に気配りの出来る女の子だ。あえてペットロスなんて言葉を用いないところに彼女の配慮を感じる。飼い主と犬の関係性を主従関係で呼ぶことに抵抗を覚える人は結構多いからだ。特に真奈美ちゃんのように大切な愛犬を亡くしたばかりの人に向かって用いる言葉には特に気を配らなければならないだろう。
ペットロスという言葉自体が、愛犬を亡くした飼い主さんを傷つけるセカンドハラスメントと言えるからだ。
「森田さん、これで涙を拭いて、でもショコラのために涙を流してくれてありがとう……」
真奈美ちゃんが千穂ちゃんにハンカチを差し出す、しばしの間、二人の視線が交差する。
「……に、二宮先輩っ!! そ、そんな綺麗なハンケチはわたしごときにはもったいなさ過ぎます!! それにこんな場面を美少女四天王の未公認私設応援団に見つかりでもしたら、明日から千穂はスクールカーストの最下層の奈落に叩き込まれますから……。お気持ちだけで結構ですぅ!!」
千穂ちゃんが小動物のようにぶるぶると肩を震わせながら、かぶりを振った。
何なんだ!? その狼狽っぷりは……!!
やっぱり百合的な意味なのぉ!! かえすかえす恐るべし、君更津南女子の闇……。
んっ、んっ、こほん……!! 気を取り直して、先に進むよ。
「真奈美ちゃん、この後、何か予定はあるの?」
「えっ!? こ、この後って、あ、ああ……。何にもないよ!! 未祐ちゃんのお、
おにい、ああっ!? 何でもない何でもない!! 《《しっぽ》》とは何も関係なしだから!!」
ええっ!? 真奈美ちゃん、まだ本調子じゃないのかな……。こんなにしどろもどろになった彼女は見たことがない。それに未祐の……。いったい何を言いかけたんだろう?
「ちょっとお茶を飲ませてね……。ごくごくっ!! ふうっ!! 取り乱してごめんね未祐ちゃん、真奈美はこの後、全然大丈夫だよ!!」
なんか本当に真奈美ちゃんは平気なのかな!? 何か大丈ばない気がするけど……。細かいことはまあいいか。
「じゃあ、二宮先輩と未祐ちゃん、若い人同士でここは仲良くね!!」
私に意味ありげな目くばせをしながら千穂ちゃんが席を立った。
わわっ、ちょっと待ってよ。真奈美ちゃんと未祐の二人っきりにする気なの!?
千穂ちゃん、空気を読みすぎだよお!! 決意はしたけどまだ心の準備が出来ていないのに……。
「……じゃあ、私はこの後に【先取先生! 卒業まで絶対に先生の赤ちゃんを孕みます♡】の執筆の追い込みがありますので、某小説サイトの野ヘビいちごコンテスト8の応募締め切りがあと二日で、応募規定の最低文字数、十万文字がまだ一万五千文字も足りていないんですぅ!! このままじゃあコンテストの審査対象にならなくなっちゃうよぉ……。でも千穂ね、本当にめちゃくちゃ大ピンチなんだけど、逆に気分がハイになって、オラ、何だかわくわくしてくんぞ!! よいこのみんな、応援の☆元気玉☆をぜひ俺にくれないか!! 状態で脳内物質がドバドバ分泌しているのでそろそろおいとましますね……。 未祐ちゃん、後で聞きそびれた恋バナの顛末を聞かせてね!! 二宮先輩もお先に失礼しまーす!!」
トレーを持ちながら千穂ちゃんがいそいそとハンバーガーショップを後にする。
あの童貞を殺すセーターの下にはまたまたブラジャーを着けていないのか!?
あれほどおっぱいの取り回しに気をつけろと未祐が口を酸っぱく注意してあげたのに……!!
あの目は絶対に今回の未祐と真奈美ちゃんのやり取りを【先孕】のネタにするつもりだっ!! 彼女の脳内で夢小説の登場人物の瀬戸際着床ちゃんと今童夢に私たちを置き換えられているに違いない。
【小説の執筆が捗っちゃうよおおっ!!】って千穂ちゃんは心の中て今ごろ雄たけびを上げてるはずなんだ……。
差し向かいに座る真奈美ちゃんはハンバーガーを少し小分けにして食べている、珍しい食べ方だな、未祐みたいに大口で食べないところがお嬢様らしい……。
おしとやかな仕草で食べ終わると、紙ナプキンで丁寧に形の良い唇を拭いながら、ゆっくりと言葉を発した。
「……未祐ちゃん、いったいどこに真奈美と出かけるつもりなの?」
「それは、まだ内緒にさせて、未祐に良い考えがあるから……」
「えっ、未祐ちゃん、良い考えって何……!?」
「真奈美お姉ちゃんは私を信じて一緒についてきてくれるかな、そこは《《しっぽ》》が沢山ある場所なんだよ!!」
次回に続く。




