其の肆
「三年七組、クレープやってまぁーす! アイスから野菜まで多種多様! 三年七組クレープやってまぁーっす!」
三年七組の宣伝が、廊下の奥から響いてくる。徐々に近づいてくるそれは、きっと宣伝係に任命された男子の必死の叫びなのだろう。少々騒がしすぎるそれに一瞬眉を顰めてから、紫乃は目の前の家族に笑いかけた。
「いらっしゃいませ、恐怖の舞踏館へようこそ。大きなお荷物はお預かりしていますが、いかがいたしますか?」
それぞれに差し出されたそれを、隣で待機していた係生徒に渡し、代わりに小さなペンライトを受け取る。それを流れるように家族へ差し出し、既に言い慣れた台詞を口にする。
「こちらは出口で回収していますので、お帰りの際は係にお渡しください。中は暗くなっています、お足元に気をつけて、楽しんでくださいね。それでは、いってらっしゃいませ」
お化け屋敷にしては挨拶が丁寧すぎるかとも思わないではないが、他人に対してぞんざいな態度を取るのは三枝の娘として忌避感がある。仕方ないと目を瞑り、家族の後ろに並んでいた二年生二人へ営業スマイルを向けた。
「いらっしゃいませ、恐怖の舞踏館へようこそ」
「いらっしゃいませご主人様。三名様ですか?」
六年間微笑み続けてきた玄の本領発揮。フワフワヒラヒラしている白黒のエプロンドレスに身を包んでいようが、玄の微笑みは変わらない。
入ってきたのは、大学生くらいの男性三人組。その時点で一番近くにいたのが玄だったため、渋々声を掛けた。
「あ、はい」
「こちらへどうぞ」
身振りと声で促し、先導する。両即頭部の高い位置で二つに結われた髪が、肩甲骨の辺りで揺れているのを感じながら、空席になっていたテーブルへ誘う。
「ご注文がお決まりになりましたら、お近くの使用人にお声をおかけください。それでは失礼いたします」
微笑みのままで一礼し、カーテンで区切られた従業員区画に引き下がる。その端、現在使用している一年九組の教室後方の扉から、暗幕で作られた狭い通路を通って厨房、西演習室へ入る。そこで、近くにいた厨房係へ声を掛けた。
「吉田さん、ハムサンド一つ、卵サンド一つ、ダージリン二つある?」
「オッケー、ハム、卵、ダージリンね」
言葉と共に伝票を渡し、吉田小豆がそれらを持ってくるまでの間で伝票のストックを補充する。小道具係が製作した手製の伝票を、予算で人数分購入した小さなクリップボードに挟み込む。
小豆からお盆を受け取り、再び通路を通って八組へ。大学生三人を案内する前に注文を取った、三年生二人組のテーブルへ足を運ぶ。
「お待たせいたしました。こちらハムサンドと、卵サンドでございます。以上でご注文の品はおそろいでしょうか? ……それではごゆっくりお召し上がりください」
定型文と共に一礼し、厨房に引っ込む途中でレジへ向かっている客を発見した。その横にいる執事は丁度入ってきた客を案内するので手一杯だ。
仕方なく、玄はレジへ入る。
「お待たせいたしました」




