其の壱
暦も五月となれば、夏の暑さが徐々に日本を覆い始める。神奈川県東部に位置する紫乃たちが暮らす第八区画もまた、例外ではない。
「それで、神木。あなたはどれに出場するのよ」
昼休み。入学当初からの取り決め通り、互いの教室を行き来する途中にある小さめの広場で、紫乃は玄、茜と弁当を広げていた。おあつらえ向きにベンチのようなものが用意されている辺り、ここは八校にはない食堂のような扱いなのかもしれない。
「……ん?」
閑話休題。ご飯を嚥下し終えた紫乃の唐突な問いに、丁度購買のパンを口に運んでいた玄は動きを止めた。
「何のこと?」
そう問い返され、紫乃は自分の問いが唐突すぎたかと一呼吸置く。そして、改めて問いを紡いだ。
「さっき決めたでしょう? 二週間後の、三種混合戦闘術大会よ」
「ああ。それか。僕は直接戦闘術の部だよ」
完璧なまでに予想通りなその答えに、紫乃はため息を押し殺す。それが身勝手だと知っているから。
「そう、順当ね。茜は?」
「術式戦闘術の部だよ。あたし、近接系は全然ダメだからさ」
「あら、そうなの? じゃあ、全員ばらばらなのね」
「まあね。神木君とか紫乃ちゃんみたいなのが同じ部にいたら、さすがに勝てないから、これはこれでいいんだけど」
苦笑する紫乃と、本当に安堵したような笑顔の茜に、玄が口を挟む。
「でも確か、決勝戦は学年ごとのトーナメントを勝ち進んだ各部の優勝者十二人でのバトルロワイヤルなんでしょ? だったら、お互いそこまで勝ち進めば、戦えるよ」
その傲慢とも取れる発言も、件のテロリスト殲滅作戦の時に聞き慣れている。そんな事よりも、今はそんな事を言い出した理由の方が気になった。
「珍しくやる気みたいね、あなた」
そんなツッコミに、玄の声が翳った。
「……『守るために戦え』って?」
「別にそんな事は言ってないわ。けど、あなたは少なくとも好戦的な人間ではないと思っていたのだけれど」
「確かに、僕はそこまで乗り気なわけじゃないけど。ミストレスが残念そうだったから」
図星を指され、言葉に詰まる。玄は先程の翳りなどなかったかのように笑っていて、それがまた紫乃の調子を狂わせる。
そんな紫乃に助け舟を出したのは、茜だった。
「……じゃあ、二人と戦うには決勝戦までいけばいいんだね?」
「あら、茜も乗り気なのね」
茶々を入れた紫乃を真っ直ぐに見つめ、茜が切り返す。
「うん、お姫様のご所望とあらば、馳せ参じないわけにはいかないし」
玄が耐え切れなかったように笑みを深める。一拍遅れて、紫乃もその意味を悟った。
だからと言って、頬を染めるような可愛げのある反応など期待されても困る。紫乃はただ、少し強めの眼光で茜を見やった後、ただ一言だけ告げた。
「お待ちしてるわ、王子サマ」
その台詞への反応は、三者三様ならぬ二者二様だった。




