bright greenNo.4暖かな来訪者
――医務室の半開きになった窓から風が入ってくる。
室内には規則正しい電子音が響いて。
俺はテュールが寝ているベッドの直ぐ近くに椅子を持ってきて座る。
腰を降ろした先に見えるのは彼に繋がれている管や装置。
それらが視界に入る度に俺は自身が不甲斐無く感じて、
床に眼を向けて俯いた。
テュールが医務室に運ばれてから3日が経った。
相変わらずテュールの瞼が開く事は無く、
フェンリルもあれから来ていない。
テュールは今も未だ、生と死の境を彷徨っていると誰かが言っていた。
だから俺を叱るいつもの彼の声も聞えない。
俺は結局何も出来なかった。
あの時。
テュールから通信が来た時、
直ぐに駆けつけることが出来ていれば、
テュールが生と死の境を彷徨う事は無かった。
いいや、
そもそも、分かれずに一緒に行動していたら、
テュールは医務室に運ばれるという事も無く、
侵入者も捕獲できた筈だ。
そう言えるほどにテュールは強い。
それを俺は支部の誰よりも知っていたんだから。
それなのに、
テュールとコンビを組んでおきながら、
俺は何も出来なかった。
思えば。
いつだって俺は肝心なときに何も出来ていない。
皆でアノ場所へ行った時も。
怒りでスキルが暴走して、処分されそうになった時も。
俺が他の組織の人間にやられそうになった時も。
全部助けてくれたのはテュールだった。
色々な思いが頭を巡り、
唇と手にグッと力が入る。
けれど、事実は変わらない。
張り詰めた空気が室内に留まる中、
【コンコン】という音が扉の外から聞こえてきた。
俺はハッとして扉の方に顔を向ける。
――――
スライド式の扉を開けて医務室に入ってきたのは、
紅のドレスに身を包む短髪の女性だった。
支部に居て一度も見たことが無かったその女性は――
ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
コツコツと足音がこちらに向かって来る度に空気が重く近づいてくるような。
そんな感覚が俺を襲う。
俺の目の前に来た女性は、一言。
「重苦しい空気だね」と言った後、
女性もテュールの近くに椅子を持って来て座った。
いきなり入ってきたこの女性は一体誰なんだろうか。
そんなことを思いながら、
テュールを見る女性の顔をチラっと見た。
その瞳の中に感じたのは、
可愛らしくも有り余らんとする闘志を帯びているかのような。
暖かで鋭いモノのようだった。
紅のドレスの女性は、俺が見ていたのに気付いていたのか――
女性は俺に眼を向けて言葉を発した。
「私の顔に何か付いているのかな?
何者なのかというような顔をしているけれど」
と言って後、
直ぐに紅のドレスの女性は考え込む。
少しの沈黙の後、紅のドレスの女性は思い出したように言葉を紡いだ。
「そう言えば私のことを教えていなかった。
――君に私が何かということを説明するとするなら、
私の名前はティウ。
今目の前に横たわっている男と同類さ
なので畏まる必要は無いよ」
そう言い終わったティウという女性は、
苦々しい顔をして、頬を小さく掻いた。
はっきり言えなくてすまないねと言いながら。
話を終えた後、
しばらくテュールを眺めていたティウという女性は、
スッと椅子から立ち上がる。
そして――――
室内に入ってきた時と同じように、
コツコツと足音を響かせながら医務室の扉に向かう。
扉の前に着いたティウと言う女性は、
俺に一つの言葉を投げた。
「近々、また逢う事があるかも知れないけれど、
その時はよろしくねガルム君」と。
その声色は先程と違って、
とても優しそうに聞えて――
テュールが運ばれて以来、
重く張り詰めていた室内の空気が、
少し、暖かさを帯びていた。
№4 end




