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小説を書く時のヒント集  作者: 電式|↵
作品の書き方・アドバイス
17/17

【メイキング記録】ループものを作る 3

 ループものを作る、メイキング最終回へようこそ。

 前置きもほどほどに、今回もマジ巻の特定区間のネタバレをしながら進めていきます。


◆もう少し詳しく過程を追ってみる


 元々「何かを作ることに挑戦するなら、失敗、大失敗するのが普通だよね」「上手くいかないことをなんとかしようと努力するドラマって面白いよね」というのを物語に組み込みたいって思いがまずあったわけです。

 で、作中の要請として、飛行艇の予算に制限があり、何度も機体を喪失するような大失敗を繰り返しすことが難しい状況があって、そこを解決する手法として「ループ展開」が用意されたという経緯です。


 それから、前述の通り、主人公のコウは一人では飛行艇を作れないので、現地の大勢の仲間に協力してもらって頑張るわけですが。

 主人公コウの視点では決して見ることができない、仲間による隠れた献身も描きたいと思ったわけです。

 (それをやるなら最初から三人称でやれ等ツッコミはあるやもしれませんが)

 それで、作中の状況とか展開の都合等によって、白羽の矢が立てられたのが「リン」です。


 二つの要素を融合させると「リンがループする」になるわけです。



 ループ展開だと時間が戻ってリセットされるので、言い方は良くないですが、どれだけ悲惨なことが起きても戻ればOKです。

 なので通常の物語では扱いづらさのある死亡事故を、ループ展開だと扱える。

 さらに、死亡事故を回避することが物語のモチベーションになる。一石二鳥ですね。


 で、世界初の航空機は、初飛行が一番高リスクだし、歴史的に見ても空を飛ぼうとして命を落とした人ってのは大勢いますから、初飛行で大失敗するってのは、納得いく展開だろうって感じで失敗の舞台を決めていくわけです。

 なんか書いてて私がすごいサイコな奴みたいな……まあいいや。


 さて。ループ構成を考えると、最小構成は「失敗1回→成功1回」かなと思いました。

 作中時間が長期間にわたって詳細に描かれる構成(人生をやり直すなど)なら、これでも良いかと思います。

 今回は作中時間が比較的短いので、これでは物足りないと考えて「失敗1→失敗2→成功」という形にしました。

 ここでの失敗は死亡、成功=生還であって、初飛行の試験の成否は別です。


 次に考えたのが、成功を際立たせる展開です。


 成功を際立たせるなら、失敗1より、直前の失敗2にどん底を置いた方が良いと考えました。

 失敗2を最大の山場にしようというわけです。


 とはいえ、タイムループは「どれだけ悲惨なことが起きても戻ればOK」なのは、読者も薄々理解しているはずです。

 つまり失敗2を山場にするには「どうするんだよ、これもう無理では?」って思わせないといけない。

 これにはちょっと私もしばらく考えました。


 例えば、リンが身体を張って死ぬほど頑張って、失敗1をやっと回避できたと思ったら、ラスボスの失敗2が即襲いかかってコウが死んでしまう。

 過去に戻ろうにも、失敗2の原因が不明で、回避するための情報をリンは得られない。これなら詰みになると考えました。


 ダメ押しでリンの心を折ってしまえば、詰み感が増しますから、関係ない人も犠牲者に巻き込んで大きな事故にしてしまうのが良いだろう、と。

 さすがに、リン自身の行動で結末が変わって関係ない人まで殺したのに即「さあ次のループだ!」はさすがに無理がありますからね。



 やっぱ作者サイコだろ。



 失敗2の役割は「詰み感を与えること、折れたリンが再び立ち上がる展開にすること」決まりました。(折れてもまた立ち上がらないと、リンが行動できないですから)

 じゃあ残った失敗1の役割は? というと、こちらはチュートリアル役です。


 作品としてもリンがループする描写を初めて描くので、読者に状況や制約を理解してもらうチュートリアルとして失敗1を使います。

 あとは、リンが頑張る理由、応援したくなる理由の構築の時間でもありますね。


 頑張ってチュートリアル(激ムズ)をクリアしてから、すぐにラスボスの失敗2に挑んでもらう。詰み感増しますね。良いですね。


 それで、物語全体の感情曲線は以下の図のように設計してみました。


挿絵(By みてみん)

図2 感情曲線のようなもの


 ループ1~4が失敗1(チュートリアル)、ループ5が失敗2、ループ6が成功ルートです。


 ループ1~4まではチュートリアルなので、リンがどう行動できるか、どんな動きをするのかを中心に描くため、ここが最もダレやすい部分です。特にループ3、4あたり。


 よく見ると、ループ2~4にかけて、「ギャグがどうのこうの」と書いてありますね。

 衝撃の事実です。ここまでバチバチに理屈屋ムーブをキメておきながら、この作品、ギャグもしやがります。


 リンがコウの救済に本格的に動く、ループ4の後半から最後のループ6までは、一貫してシリアスが続きます。

 言い換えればギャグの挿入が適当ではない区間が続きますから、ループもののダレの緩和と、シリアス潜水前の読者の息継ぎを兼ねて、チュートリアル区間は適度にギャグを用意しておく、というわけです。


 身も蓋もないことを言ってしまうと、ループ5での大惨事で、ギャグに関わってたキャラクターも事故に巻き込まれて死んじゃいますから、リンが絶望から立ち上がってループ6で復帰して過去に戻ってきたとき「死んだはずのキャラクター」が楽しげに穏やかにしているのを目にしたときの気持ちの形成にも、ギャグは一役買うようにする、というわけです。


 プロット構成によって、先の展開がある程度の確度で決まっているからこそ、こういった対策が可能なわけです。


 いまサラッと「ギャグを入れる」と書きましたが、タイムループでは、他キャラクターの動きは今回リンの干渉がない限り変わりませんから、リンの行動差分が起点になってギャグへ展開しないといけません。

ループ構造は、ギャグを挿入する難易度も高くします。


 絶望のループ5は、落差が重要です。市街地墜落事故は徹底的にやる必要があると考えました。

 ここでビビってソフトにすると絶望感がなくなりますから、ここはシミュレーションに徹します。

 物理に倫理は通用しませんから、男女子供、平等に事故に巻き込まれます。


 呆然と見ているだけの通行人。二次災害、ショックで動けない自分に対して、積極的に動いてなんとかしようとするキャラクターの描写を加えて、無力感と罪悪感を引き出しておきます。

 作り物感を排除して描写に質量を持たせたかったので、必要と思って書きました。


 図2を見ていて、ループ6で「感情曲線をあえて抑える」つまり盛り上がりをあえて抑える処置をしていることに興味を持たれたかもしれません。

 ここは「主人公コウの視点では決して見ることができない、仲間による隠れた献身も描きたいと思った」と先に説明したとおり、誰にも知られることのない、静かで孤独な救済を描きますから、大団円の大盛り上がりで終わらせることは、趣旨から逸れてしまいます。

そこで、あえて押さえている、というわけです。



◆うまく行かなかったかな、と思ったところ


 やっぱダレた気がします。

 ループ物の宿命かもしれないです。リンの一人称視点で何度もループすると、やっぱり堂々巡りになりがちですし。

 同じことを何度も描かないといけなくなるので、クドくなりやすいな、という感じでした。

 セリフが同じでも、経験してきたことが変われば見え方も感じ方も全然違う、みたいな感じで、使えそうなものは片っ端から、骨の髄までしゃぶり尽くしたと思います。


 対策として、リンの主観世界から一歩引いて、周辺の人達は飛行艇の試験をどう見ているか、という視点で物語を描写してちょっと逃げました。

 視点の頻繁な移動は良くないとは思ったんですが、そこはそこで描けるモノがあったし、視点を制限したままの方がかえって負担になると判断しました。

 もう少し構成を詰めて綺麗にできたらよかったんですけどね。



 それから、プロット設計を実際に小説本文に落としこむ過程で、展開や会話の進行に若干強引な軌道修正がありました。

 先の探査機の軌道制御の例で言えば、プロットの計画軌道に対して、実際の作品の追従精度がズレてしまい、その補正を強く行う場面があった、ということです。

 数千字、数万字を書き直した話もここに含まれます。

 読者の視点では分かったかどうかは定かではありませんが、鋭い人は恐らく分かると思います。


 公開したものは確かに、(作者の品質チェックを通る程度には)作れたとは思います。

 とはいえ結局それも自己申告なので「客観的な品質は?」と聞かれると、作者側には分からない世界です。色々と多分に不足している気がします。たぶん。


 確かに「うーん、まあ良いけど、やっぱやり直すかなぁ、微妙だなぁ……うーん、ウホウホww(IQ低下)」って悩んで通すような部分もありました。

 完璧を目指すと、何週間、何ヶ月でも悩めてしまうのが創作なので、掛けた時間と状況をみて、「実力の限界」と見切りをつけて可のハンコを押した時もあります。


 ループものに限った話じゃないんですが、通常以上に精度が要求される繊細な話なので書きました。

執筆中は、過去の連載回をいくつか同時に表示させながら、変なところがないかチェックしながら書いていました。

ありがとう、4Kモニタ。買ってて良かった、4Kモニタ。

フルHDモニタでも画面2分割してやるだけでも相当違いますよ。



◆やって良かったと思うところ


 このループシナリオなんですが、全体像を頭に入れた状態で書いていたのですが、それは良かったと思います。

 「チェックポイントの通過順」と「各チェックポイント通過時に達成しておくもの」を外さなければ、中間まで厳密に決めず自由に書いても、だいたい構成通り書けますし。

 ただループものは、過去の描写が制約を生むので、制約が多いところが、特有の難易度上昇ポイントですね。


 紙とかテキストに書き出して随時参照しながら執筆していく、というスタイルでもできるとは思うんですけど、「書きだした文書を参照しないと、整合性がとれているか確認ができない」状態が怖いですね。

 このループシナリオではそこまで大規模ではなかったのですが、今回題材にしたシナリオを内包した、物語全体の方の資料は書き出して保管していて、そっちは整合性の課題を予め潰すのにちょっと手間かかってたので。


◆そのほか


 失敗2と成功ルートは、コウ視点と、リン視点で描かれます。

どちらのルートにも、コウとリンが二人で話をするシーンがあって。ここ想定より苦労しました。


同じセリフが同じ順番で流れていく。動作もほとんど同じ。

自由度が極めて小さい制約の中で、地の文だけを頼りに描ききらないといけないので、普通にスペシャル難易度でした。


読者に「ここ同じシーンだよ、答え合わせのシーンだよ」とは直接は言えないので、理解してもらいやすくする目的で採用したんですけど、要求される展開の精度が桁違いでした。


 宇宙の軌道遷移の例えなら、先行する宇宙船「彦星」の軌道上に、後続の宇宙船「織姫」が死に物狂いで追いついてきてランデブー、そのままドッキングする精度が必要でした。

 しかも軌道遷移のために燃料を噴射して、加速している中でやるわけです。

 軌道に乗るだけなら数十メートル、数百メートルズレてても構わないワケですけど、ドッキングするなら話は別なのはご承知の通りです。


やるのは夢ありますけど、やるならそこだけ事前に作り置きして、はめ込むだけにする、みたいな対策をしておけば良かったかなと思いました。



 このシナリオだけで10-15万文字くらいかな、web連載1つ分くらいの規模感ではありますが。

 ここまで色々書きましたが、このループシナリオは物語の準本編の立ち位置ですし、本編から見た立ち位置とか役割、影響とかはまた別枠で設計しています。

 計算機が神になっていく話とか、エントロピー注入の話とか、ガチめのSFの話も挟まるんですが、ループの話に焦点を当てるために、ここでは省略しました。


 色々てんこ盛りの作品を書いててなんですが、完成度を高めるだけなら、シンプルが良いかもしれないとか思いました。

 それでも、私は複雑なものを書き続けると思います。理由があるから。


 ここに書いてあることを、すべて自分の創作に適用することは、難しいかもしれません。

 完璧なんてありません。これから何が起こりうるか、10のうち1つでも2つでも知って、抑えようと工夫する。

それだけで、なにも知らずに突っ込んでいくより、効果はあるはずです。

 真に重要なのは、自分の選択を自分の言葉で説明できることです。



 ……「『ループもののメイキングを作る』のメイキングを作る」話、いる?

 や、書かないよ。きりがないし。

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