【メイキング記録】ループものを作る 2/3
◆マジ巻でのループ使用例
前回はタイムループで何が難しいか、について一般化して話しました。
ここからは約束通り、マジ巻の特定区間のネタバレをしながら、実際にどうしたのかの説明を進めていきます。
はっきりさせておきますが、ここでのネタバレというのは「映画のネタバレ」のように「結末を知ってしまう」意味のネタバレだけに留まりません。
もっと奥深くの、身も蓋もないような話をします。例えるなら遊園地のアトラクションの裏側でやっている業務、動線設計や安全管理、あるいは労務管理みたいな夢のない話をします。
長く連載している物語なので、すべてを説明すると発散してしまいますから、要点を絞って端折って説明します。
言い換えれば、がっつりネタバレしますが、説明を簡単にするために多少の嘘も入るということです。
◆まず、物語の経緯
軽く状況を説明すると、まず「マジで俺を巻き込むな!!」はSFです。
仮想世界に生きる高校生の主人公、足立さんがファンタジーな異世界、仮想現実に連れてこられて、飛行艇を作るシーンがあります。
作中では「コウ」とか「アダチ」とか呼ばれている人物です。
来てしまった先の世界が有翼人だけの世界だったので、道路網、交通網が限定的にしか発達していなかった。
主人公は仲間とともに、現在地のナクルという街から神都と呼ばれる街への長距離移動をすることになり、飛行機が必要になりました。
ちょっと頭が回る程度で現代知識チートもロクに使えず、スキルも無く、ただいきなり連れてこられただけの足立さん。
現地の人々に人も知恵も財布も出してもらい、その世界のあるものと、無い知恵を絞って、頑張って飛行艇を作るんですが、そう簡単にうまくいくわけがなく。
世界初の航空機の初飛行、川からの離水試験で事故が起きて、主人公の足立さんは死んでしまいます。
現地の行政が報告書を発行して、グッバイ足立さん!(意訳)とお悔やみ公文書を出してエンドロール。
ところが物語は終わらない。
場面がいきなり離水試験に戻って、主人公や周りのキャラクターが同じ動きをする一方、主人公が事故を起こさない結末も提示される。
読者が全く異なる結末の差分を遡っていくと、主人公の仲間のある一人の少女、リンネ(以降、リン)がその源流だと気付く――
というわけで、そこからその子に視点が移って、死んでしまう主人公を救うために、タイムループする物語が描かれる、という構成が今回のお話です。
もちろん、読者が全員遡るとは限らないですけど。
「ん、見覚えのあるシーンから始まった話が、なんか二つの違う結末に分岐したぞ?」という認識さえ持ってもらえればOKと思っています。
最悪、認識持ててなくても、ページを進めれば、時間は戻るかもしれませんが話は進みますから……
作中で事前に時間ループが起こりうる、という予告をしてあるので、その前振りからループ展開の開始に気付く人もいるかもしれません。
上手くいったかはともかく、そういう目論見だったという話です。
行政の報告書を直接読んで物語の結末を読む、みたいなちょっと、実験的なことをやってるので、そこは参考にしなくてもいいと思います。
◆タイムループをどう処理したか
さてここで、タイムループでの彼女の機能と構成を見てみましょう。
まず、先に挙げた「タイムループが万能すぎる」問題。これのブレーキが必要ですね。
問題の本質は「タイムループが万能すぎて、最適解を選んでしまうとエモくも物語にもならない」ところです。
今回は、ちょっとややこしいんですが、リンという少女の身体を動かしているのは「エクソア」という別の知性体に設定してあります。
本来の身体の持ち主であった「リンの意識」は、エクソアの五感を通じて世界を認識しますが、声を出すことも、身体を動かすこともできません。
時間遡行をするのは「リンの意識」だけ、という形で「何でもアリ問題」を回避しています。
それと、時間を遡るタイミング遡行先も、リンの意識は決定できません。別の法則によって制御されています。
明晰夢を見ているけど、身体を動かせないのと同じです。
リンは、飛行艇開発プロジェクトから最も遠い女の子。飛行艇のことも全然分からないところからスタート、という仕様です。
読者も飛行艇の詳しいことは分からない人が多いはずなので、彼女の視点で物語を進める方が分かりやすいですし。
こうしてタイムループの「万能さ」を封印して、「どうやるんだろう?」「どうなるんだろう?」という興味を読者に持ってもらえるようにしておきます。
ご賢察のとおり、「限られた手札で、いかに切り抜けるか」みたいな展開が私の癖なので、制約の付け方もそんな感じです。
制約を決定したら、ゴールまでの一部始終の構成を用意します。
ちょっと図を用意しました。
いまどき貴重な、人の手によって作成された図です。このヒント集の文章もそうですけど。
細かいところまでは反映していないので、図は概略と思ってください!
図1 ループ構成図
ちょっとスパゲティみを感じる図ですが、最初にコウの死亡ルート(失敗2)、生還ルート(成功)の順に見せてから、一番下のリンのループが始まる流れです。
リン視点の各ループは、必ず何かしら構成上の意味を持つことと、リンが行動を開始してからは、リンが何を目的に行動しているのかを明確にしました。
時間ループは混乱しやすいと考えたので、時間を渡り歩くリンの主観的な時系列と目的に専念することで、混乱を抑えるようにしてみました。
それから、一気に行動すると、最初からすべて知っているような形になってしまいます。
そこでループを追うごとに、一歩ずつ段階を追って高度化するように構成しました。
ループのたびにリンが失敗して学習するように、そして彼女の改善が、シナリオに沿う形になるよう構成しています。
一回目
リンが何もしない場合の初期状態(基準状態)をここで描く。
時間を遡って、離水試験を繰り返す強制無限ループに置かれている現状と、コウを救う心理的な後押し(理由)の提示。
人はロジックだけではなかなか動かないので、ちゃんとリンが行動を起こす動機づけを与えます。
二回目
リンが意図せずエクソアに働きかけた結果、初回ループから結末が微妙に変わる。
未来を変えられることを示し、(初回の動機づけもあって)彼女は恐る恐る未来改変を決意する。
三回目
不自由ながら、リンとエクソアのコミュニケーション手段を確立する。
事故死するコウを救い、離水試験を成功させるための情報収集を開始。
リンの依頼をエクソアが理解しなかったり、誤解して動いたりしてしまう場面を提示し、簡単には進まないことも示す。
情報収集によって、試験直前にパイロットのコウが、同乗する仲間の命を背負う重圧と緊張、死の恐怖と戦っていたことが明らかになる。
(リンの迷いを断ち切り、改変行動を肯定・強化する要素)
ここまでのループ描写で、状況設定、動機づけ、進め方のスタイルを提示を完了させる。
四回目
ここから本格的に物語を動かしていく。
リンは事故を理解するための情報収集を続ける。また、前回の教訓からエクソアへの依頼の仕方を改善する。
途中、リンは偶然にも定型のループから外れるルートに迷いこむ。これを最大限活用して、飛行艇に乗り込み、機内からコウを直接救うことを試みる。
※第一クライマックス
身を挺した決死の行動にもかかわらず、救出は失敗する。
リンの行動の変化が、間接的に意図しない結果をもたらすことを提示。
五回目
リンは、集めた情報を元に、水上での事故を回避し、離水試験を成功させる方法に気がつく。
コウに助言した結果、飛行艇の離水は成功する。その後、飛行艇は市街地に墜落し、コウを含めた他の仲間と、地上の人々に多数の死傷者を出す大惨事に発展する。
これによって離水試験に干渉しない場合、コウは離水に失敗して死亡する、離水失敗を回避すると、市街地墜落により死亡することが判明する。
※主人公視点での公文書ENDの世界線
リンは自身の改変行動が招いたことだと塞ぎ込み、時間の巻き戻りが行われなくなる。
長い時間が経った後。仲間のガルがコウの墓前でポツリと漏らした一言がきっかけで、リンは技術的な助言だけではコウを救えないことに気づく。
飛行艇を作るために掛けた、時間、お金、労力。
試験を眺める観衆の存在。周囲の期待。成功への圧力。
そうした環境が、コウの判断を迷わせ、死に導いていたこと。
過去の周回で「コウを救う動機」として提示されていた情報が真の死因に繋がっていた、という転換を提示。
エクソアが時間を戻る決定権があったことを知り、リンは、エクソアと共にコウを救うためもう一度、地獄のループに立ち向かう。
六回目
リンはエクソアを介して、飛行艇を操縦するコウの判断を変えるため「失敗を自ら選び取る勇気もまた大切だ」と、抽象的だが大切な一言を伝える。
リンは過去の周回で、コウの気持ちや行動を観測しているため、その一言が響くと信じて伝える賭けに出る。
離水試験は失敗(部分的成功)に留まったが、事故は起こらず、コウは試験から生還を果たす。
リンの改変行動が報われ、生まれて初めて他人から感謝される経験を得る。
※主人公が助かった時点の世界線
私としては、もう少し少ないループで構成したかったのですが、一回のループに詰め込みすぎると分かりにくいかなと思って六回になりました。
二回目と三回目を一緒にしたらどうかなとか思ったんですけど。結局しませんでした。
先のスパゲティ図で示したとおり、コウの視点から先に二つのルート話を書いているので、リンの六回と合わせると、計八回です。
(こうして振り返ると随分やりましたね……)
◆ループシナリオで特に行ったこと
1:シンボルを用意する
今回のループシナリオでは、「コウ。お前、死ぬんじゃねぇぞ」というキャラクターのセリフを、繰り返される重要なシーンの開始を指し示すシンボルとして、冒頭に配置するようにしました。
コウが死んでしまう試験が始まる前のシーンが始まるトラウマシンボルです。
繰り返しておくと、読者も覚えるのでそのセリフ一言だけで、何が始まるのかをすべて説明できる、という工夫です。上手く作用したかは神のみぞ知る。
2:同じシーンを理由なく書かない(過度な停滞感を避ける)
読む側としてループで私が一番辛いと思うのは、意味もなく同じシーンを繰り返されることなので、私が嫌だなって思うことは、できるだけ書かないようにしました。
ダレる、飽きる、が書き手、読み手にとって一番つらいですし。
理由があれば同じシーンを書いてもいいと思います。
私は、冒頭のコウの二つの展開では、途中までほぼ同じシーンをフルで書きました。
これはあとで答え合わせをするために必要な前準備でもあるし、ループ展開の突入合図というか謎の提示になるところなので、いきなり同じシーンが書かれたからといって速攻ダレるわけではない、という考えに基づいた判断です。
読み手がその意図を理解してくれるか、私の予想が当たったかは別の話でして……
物語としては、五回目と六回目は、同じ世界線の場面を主人公コウの視点、リンの視点でそれぞれ描くことになりました。
もちろん、二人が会話するシーンもあるので、セリフとか行動は同一になるように書かないと綺麗にまとまりません。
ここでの工夫ですが、コウの視点とリンの視点、描かれるタイミングを文字数的にかなり(数万字以上)離してあります。
文字数的に離れると「また同じ展開」と思うより「既視感」を読者に感じさせることができるかな、という狙いです。
また物語的には「先に描かれた主人公視点の『謎の世界線』にリンが別ルートで合流してきた」という答え合わせの機能も兼ねています。
科学的な話をするならエビングハウスの忘却曲線理論を引きずり出してきて応用するって話です。
知識や経験は、ハイ覚えました、海馬の押し入れに入れっぱです、じゃ意味がなくて、自分で押し入れに手を突っ込んで、引っ張り出して、箱から出してようやっと初めて輝くものですからね。
積極的に使っていきましょう。
3:過去の出来事への参照を「あいまいでもOK」な呼称にする
作品の中では「何周目のループで」といった絶対参照の表現を使いませんでした。(使えなかったという側面もありますが)
「N周目に何があったか」を詳細に把握しているのは作者だけで、読者はそこまでいちいち綺麗に整理して読んでいない、と考えてのことです。
多少肩の力を抜いても読める選択肢を置いた、ということですね。
実際流し読みしている人もいるでしょうし、ながらで読んでいる人もいるかもしれません。
まあ、そういう「読み込まない」方法で読む人にどれくらい優しくするのかは作者の裁量だと思います。
主観的時間をより遠くに遡る場合は、直接的に「過去に見た・描かれたことや出来事」で示すようにしました。
イベントの総称で十分説明できる部分は、イベントの総称で。
必要以上に詳細な識別を読者に要求しないように気をつけました。
とはいいつつ、問題ないことを毎回確認、みたいなガッチリじゃなくって、気付いたときに気をつけるくらいのノリなので、漏れはあるかもしれないですけど。
「『結果そういう風に作った』は分かるけど『どう考えてその結論になったのか』が分からん」という幻聴が聞こえた気がします。実際言語化が難しい領域の本丸であって、一番知りたい領域だと思います。
全体的にこうした、という話はしたので、お節介かもしれないですが、次回はそのあたりを少し掘り下げていきます。
気になる方のために、どこで今回のシナリオ範囲を読めるかだけ書いておきますね。
長い物語の途中からになりますが、6話(=6章)の「!GRAVITON → 代理救済プロトコル」までが概ね今回のシナリオ対象範囲です。
「代理救済プロトコル」の後も、!GRAVITONは続きますが、今回のシナリオの対象範囲外です。
各話ページ下部に章冒頭へのリンクがあるので、そこから辿る方が手軽かもしれません。




