表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

Loop96. 3話 もう一人の仲間

 ■渋谷区某所 ネットカフェ【深海魚】 午前10時


 


 

 あかりちゃんと別れた後、私はそのまま駅前の路地裏にあるネットカフェ【深海魚】へと滑り込んでいた。


 

 もう一人の大切な仲間に会うためだ。



 

 薄暗い店内に充満するタバコの煙。

 独特の煤けた匂い。

 ひそひそ話のBGM。


 何度目かは忘れたけれど、いつからか通うようになったお店。

 最初はちょっと怖い場所だなぁ、って気持ちだった。

 今となってはとても落ち着ける。

 秘密基地みたいな?そんな感じ。

  


 指定された最奥のペア席に陣取る。

 愛用の度なしメガネをかける。

 雰囲気って大事だよね。

   ――――もちろんピンク色。


 

 ずっしりと重いブラウン管モニターの電源を入れる。


 もちろん、ドリンクバーで並々と注いできたオレンジジュースも机の特等席にセットした。


 

 専用のブラウザを開き、これまた私たちが用意した暗号化済みの匿名掲示板へ、毎度おなじみの書き込みをタイピングする。


  

 [やっほー!戻ってきた???]




 

  

 キーボードを叩くカチャカチャという音が、静かな個室に響く。

 ネットワークの向こう側、はるか遠くにいるはずのもう一人の仲間へ。

 

 ストローをくわえてジュースを一口すすると同時に、画面がパッと更新された。

 程なくして、整った文字列が返ってくる。

 

 

 [やあ。もちろん。前回同様、12月1日の午前0時にいつもの場所さ]


 

 (あぁ、よかった……)

 

 

 画面の文字を見た瞬間、張り詰めていた肩の力がすっと抜けた。

 

 世界がどれだけ滅びようと、この画面の向こうには必ずいてくれる。

 

 彼、ないし彼女はループの孤独に潰されそうな私を繋ぎ止める命綱の1つだった。

 


 

 でも――もしもいつか、この画面が静まり返ったままだったら?

 返事が返って来なくなったら──そんな想像をするだけで、背筋が凍った。



 

 「…………」

 


 

 やめよう。頭を振って考えを振り払う。

 

 

 [よかった!あかりちゃんも無事戻ってきたよ]

 [それはよかったよ。じゃあ、まずはこちらの報告から始めてもいいかな?]

 


 

「いいよー」と画面に向かって呟きながら、レスを返す。

 

 オレンジジュースは甘酸っぱくて、うん、美味しい。

 

 

 だけど、次に画面に流れてきたテキストを読んだ瞬間、私の口から甘い空気は一気に吹き飛んだ。



 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 [第95回 仮称’’アンゴルモア’’戦績報告]

 

 

 [12月30日。前回同様、未来情報の開示によって米政府および軍事方面との協力体制を構築。

 アラスカ沖にて、対象の『端末器官』と交戦を開始。

 初期段階において弾道ミサイルによる集中砲火を敢行。

 降下速度の減衰には成功するものの、対象への目視可能な損傷は『なし』。

 


 

 交戦開始28分後、航空戦力による波状弾幕を展開するも、減衰効果なし。

 規定ライン通過を確認後、地上部隊による総力攻撃へと移行。

 対空砲撃による効果、同じく『なし』。

 


 

 交戦開始32分後、巨大生体部より無数の触腕(純白の枝)が放出。

 地表に接触し、建造物・車両の区別なく『捕食』を開始。

 交戦開始34分後――全作戦部隊、全滅]


 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 送られてきたログは、私の知るあの地獄をそのまま数値化したような凄惨なものだった。

 

 

「うわぁ……。ジュリ、本当にお疲れ様……」

 

 

 思わず画面の前で声が漏れる。

 

 確か、正面からの軍事戦闘を組み立てたのは前回が初めてだって言っていた。

 

 それまでは世界中の関係各所の情報収集や、政界の弱みを握って協力体制を作るための道筋を探していたはずだ。

 これだけの泥泥とした作戦を一人で組み立てて、その結末がこれ。


 

 画面の向こうの彼女の心中を察して、胸の奥がキュッと痛む。


 

 [以上が前回の報告だよ。まったく、近代兵器じゃ爪の垢ほども刃が立たなかった(笑]

 

 

 [ジュリーー(ToT) おつかれさまー!ハンカチどうぞ!]

 

 

 慰めのレスを打ち込んでいると、ポケットの中でバイブ音が短く震えた。


 『らっぴー』だ。

 パカッと開いた液晶画面に、ジュリちゃんの報告書を読み込んだ形跡を示すログが流れる。

 

『……サキ。私のスペシャルなコンピューターが演算した予測結果も、彼女の報告と一致しています』

 

『通常兵器によるダメージは完全に無効です』

 

「だよねぇ……。私の魔法で強化したところで、火力が通らないんじゃ意味ないもんね」

 

 私ができることは簡単な強化の術式。

 

 それと、この血に宿る魔女の魔法で加速や減速が操れるくらいだ。

 やっぱり圧倒的に手札が足りていない。


 

 はあ、もっと出来ることが増えたらいいのに。

 あの日のあかりちゃんを思い出しながらジュースを飲み干した。


 

 

 [ありがと、サキ。それで今回なんだけど、いっそ行動を変えてみようかと思ってるんだ]

 [行動を変える??]

 


 

  基本的に、ジュリは海外のあらゆる拠点を旅して情報を仕入れ、それを元に私とあかりちゃんのサポートに徹してくれていた。

 

 彼女がその‘完全記憶能力’で保全している周回情報は、私たちの何よりの武器だ。

 その情報源である彼女が、情報収集とは違う行動?


 

 私はストローをくわえたまま、小首を傾げた。


 次の瞬間――画面に表示された文字に私の思考が完全にフリーズした。

 

 

 [そういえばさ、ボク、そっち側(日本)には一度も行ったことがなかったなと思ってね]

 [ボクも日本の渋谷に行くよ]

 

 パチリ、とモニターの光が私の目元を白く照らす。

 ジュリが、日本に来る。

 

 96回目の世界にして初めて訪れる、『変革』の予感に心臓が高鳴った。

 

 

読んでいただきましてありがとうございます。


次回4話は6月27日 18時に投稿いたします!!


第4話 は 「タイムレポート1999」

 ジュリにスポットを当てたストーリーが展開されます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ