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Loop96. 2話 繰り返す日々とあの日の変質2

 

 

 ■渋谷某所 喫茶【サンサ】 午前8時30分


  

 

 西洋風のアンティークが並ぶ、静かな喫茶店。

 

 マスターがこだわっているのか、見るからに古そうな調度品が静謐な雰囲気を作り出していた。

 

 薄暗いボックス席。上着と学生かばんを傍らにいつもの場所で特大のチョコレートパフェをつつく。

 

 それはもうがっつくと表現してもいいかな。

 今はとにかく甘い、甘いクリームが私の魂を癒すのだ。


 

 正面に座る少女がジトッとした目で睨みつけていた。

 正しく言うなら、呆れ目だ。


 

 結わえた髪をわずかに揺らしながらこちらを見据える。

 ちょっとハスキーでカッコいい声色をした彼女がどこか呆れたような声色で問いかけてきた。

 

  

 三屋敷 あかりは私の1つ年上のお姉ちゃん。

 いつも世話を焼いてくれる優しいお友達――幼なじみ?と言う感じ。

 焦げ茶色かかった黒髪に赤色のさし色をいれたおしゃれさん。

 

「それで。前回の戦いはどうなったの?サキ」


 あかりちゃんが前回の戦い――つまりは1回前の周回の終幕を聞いてきた。

 95回目の12月31日。

 その回は駐屯する自衛隊の人々と協力して戦いに臨んだ。

 私の『魔法』とあかりちゃんのフィジカル、そして街中で懸命に戦う勇士達。

 少しも抗えずに、皆次の周回へと戻っていた。

 

「ぅ…………」

 

 あかりちゃんが真っ二つになる記憶を思い出して、気分が悪くなる。しかし、すぐにいつも通りの声色で答えた。

 

「だめだめだったよ! あかりちゃんが死んじゃってからはすぐにびったんこ! ギリ生きてたけど、その後はいつもどおりにリセット!」



 

「……そうか。なら、サキが死亡した時刻はだいたい21時40分頃だね?」

「そうだねー! んまっ、やっぱこのパフェ最高!」

 

 

 もぐもぐと口を動かす私に、あかりちゃんは「ふむ」と軽い頷きを返し、手元に広げた手帳へ視線を落とした。

 びっしりとズレなく並んだ文字の羅列。

 

 その一番最後の行に、あかりちゃんは淡々と私の死亡時刻を書き加えていく。

 内容は見せてくれないけど。

 

 

「前々回はあの化け物が現れた瞬間にバラされたんだったね?その点、前回はうまく立ち回れた方かぁ」

「だね。だいたい三十分くらいかな? あの‘恐怖の大王’様、とにかく確殺を狙ってくるし、というか空を覆うサイズ感だし反則だって!」


 毎回そうだけれど31日の夜に姿を見せる。

 その瞬間に“あの終末”が始まる。

 

「こちらが‘時を遡れる’とはいえ、どこまで抗えるか」

「……私だって、いつまでサキと一緒にこの日へ‘戻って’来られるか分からないからなぁ」

 

「あははー、大丈夫だって!」

 

 と茶化すように笑う私を、あかりちゃんは嗜めるように見つめてくる。

 私は自分が起因の魔法で時間を遡っているけれど、あかりちゃんはその副産物で記憶を保持しているだけだ。

 

 いつか自分だけが置いていかれるんじゃないか。

 

 彼女の瞳の奥には、いつもそんな危惧があった。


 「……うん。わかってるよ、あかりちゃん。今が奇跡だってことくらい」


 真面目な顔で頷くと彼女は1つため息をついて「ならば良いです」と言葉を漏らした。



 

 カラン、とスプーンがガラスの底を叩く音が響いた。



 いつの間にか特大パフェは空っぽだ。





 

 少しの沈黙の後、あかりちゃんが手帳を閉じた。

 

「それで、今回はどう動く? 何から始める?」

「そう、それね! それなんだけど……正直、完全に手詰まりでどうしようかなって!」

 

 

 95回の繰り返しの中で色々試したりしてみたけれど、どれも効果はなかった。

 逃げたし、戦ったし、隠れたし。それでも向かい合う以外に方法なんてなかった。


 

 私はお手上げポーズを取りながら、あははーっと笑ってみせる。

 

 楽観的な表情を崩さない私に、あかりちゃんは眉間を押さえて、ハァと深い、深い溜息をついた。

 

「あ!でもね、最後の日によく分からないメールが届いたんだよ」


 そういえば、と鞄に押し込んでいた携帯電話――『らっぴー』を取り出した。

 メールBOXを開いて卓上に置いてあかりちゃんに見せる。


「ん?なんだこれは」

「わっかんない。でもいつもは来ないんだよ」


 私も覗き込んでメールの内容を確認した。


『最■の■達■──

 ── ァ■■■■■■■■■■■■■■──』


 意味不明の文字列。

 最強の…………友達?


「あかりちゃんの事かな?」

「なんでだ」

「あかりちゃんは最強じゃん!」


 そう、あかりちゃんは最強なのだ。

 この街を守る影のヒーロー、もとい退魔師さんなのだ。しかもその中でも歴代最強と評価されているのだ。

  

「まったく……。まあ、メールの件は私には分からんがこちらでも手がかりを探しておこう」

 そう言ったあかりちゃんは手帳をパタンと閉じてペンをしまった。丁寧な所作で荷物をまとめて帰宅の準備を整えはじめた彼女に私も倣う。

 

「あ、もう行くの?」

「ああ、いくつか調べておきたいこともあるしな。それに今回はやっておきたい事がある」

「やりたいこと?じゃあ私もついてく――――」

「それは駄目」


 ぴしゃりとあかりちゃんが否定した。

 周りの空気が静まり返る。

 


 

「サキは絶対に踏み込まないで。これは、そっち側の話ではないの」

 

 

 こういう時のあかりちゃんは大体【家】の事柄をどうにかしようとしている。

 私には関わらせたくない、といつも跳ねのける。

 

 今までの周回でも何度かあったけれど、そのどれも私は守られてばかりだった。

 

 

 えーっ、と不満を漏らす私のおでこを、あかりちゃんは人差し指で軽く小突いて、小さく笑った。


 

 

 

  

「サキはいつものように、ジュリを頼りなさい。あいつの方が、私よりよっぽど頭が良いから」

 




 

 

 

 

また読みに来てくれてありがとうございます!


今回はサキとあかりが登場しましたが、次回はもう一人の仲間が登場しますよ!


更新は6月26日 午後18時 です!

ぜひ楽しみにお待ちいただけましたらうれしいです!

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