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Loop95→96. 1話 繰り返す日々とあの日の変質

 

 赤い、赤い――――真っ赤な空だ。

 

 世界のすべてが燃えていた。


 それはまるで夜を焼き尽くすかの如く。


 赤黒い光が、天を覆い隠していた。



 

 轟々と唸る風の音が、鼓膜を激しく叩いてうるさい。

 まるで、流れ落ちる滝のようだった。

 


 煤臭い空気が肺にまとわり付いて、鼻の奥がツンとした。


 爆発音、怒号、悲鳴――――あらゆる絶望が、風の音に混じって聞こえていた。

 


 「ごほっ……げほっ……!」

  

 湿った咳が漏れた。


 口の中に広がる、嫌な鉄の味。

 どうやら内臓のどこかが潰れているらしい。


 「う、いっ......たぁ」

 

 ボロボロの身体に無理やり、力を込め――上体を起こした。


 狭くなった視界を巡らせて、世界を見る。


 


 燃える空。


 燃える渋谷の街。


 燃える――人。

 



 1999年12月31日。

 世界の終わりが、正しくそこにあった。



 

 天空から街を覆うように、純白の帯が降り注いでいる。


 しなだれるように地に触れたソレは、無数の糸に分かれ、建物を、必死に逃げる人々を容赦なく貫きならしていく。

 


 美しくも、無慈悲な死の合掌。


 

 弾薬の限りを放つ自衛官。


 乗用車で突撃する男性。


 我が子を庇いながら小さなナイフを掲げる母親。



 誰もがあらがっていた。


 ――けれど、その全ては意味をなさず無感情な白い奔流にのまれて潰えた。

 

 


 そして──その波が、私の眼前にも迫っていた。

 


 どのみち助かる命じゃない。

 

 私は一呼吸——息を止めて、瞳を閉じその瞬間を待った。

 ふと———  

      ──『メールを受信しました』と。


 死を待つ私のポケットの中で、携帯電話が場違いな電子音を短く鳴らした。




 ただそれだけだった。





 

 大預言者ノストラダムスが残した『恐怖の大王』の予言は、最悪な形で成就した。


 世紀末の世界は、今日、終わりを迎える。

 



 ただし──

  


(──私にとっては、これで95回目の【世界の終わり】なんだけどね)





 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 『――エラー。因果律の規定値超え。世界式のリセットシーケンスを完了しました――』

 ――――――――――――――――――――――――――――――――






  ――12月1日。午前7時00分



 

 「……おはよ、私」

 


  いつものように、今生の自分にご挨拶。


 

  ひどく重い身体を起こして視線を巡らせれば、そこは見慣れた私の自室だった。


  空色のカーテンの間から、柔らかな陽光が差し込んでいる。


  ピンクのベッドに筋を描く光のコントラストが、やたらとかわいい。うん、かわいい。 


 (やっぱこの色で正解だなぁ)


  などと過去の自分を褒めてやる。

 

  一緒に眠っていたお気に入りのぬいぐるみをひと抱きしてから、ベッドを抜け出して窓を開ける。


 「うー!さむうー!」

 

  冷たい冬の空気が、まだ眠たい身体にピリッと染みた。

  外はいつも通りの静かな街並み。

 

  よし、と両頬をパチンと叩いて起動完了!

 

  ふと机の上に目をやると、お気に入りのピンク色の折り畳み携帯電話――通称『らっぴー』ちゃんのランプが明滅していた。

 

  始まりのあの地獄から一緒にいてくれる私の大切な相棒。

 

 『おはようございます、サキ。今回も、無事の同期を確認しました』

 

 「うん、らっぴーもお疲れ様。今度こそ、みんなで生き残るよ」

  

 朝のルーティーンを済ませ、トースターで焼いた食パンにたっぷりバターを塗る。




 お気に入りのリュックを背負い、パンをくわえたまま玄関の姿見で最終チェック。



 お母さん譲りの深い黒髪。


 ちょっと私の名前と同じ“むらさき色”を入れたんだよね。うん、今日の寝癖も許容範囲。


 寝起きのぼやっとした顔はさようなら!

 ぱちぱちのお目々は完璧!



 区内指定の制服にお友達とおそろのアウターを合わせておしゃれも完璧!



 今日の私も完璧魔法少女なのだ!


  

 ――――っと。


 



 壁に掛けられたカレンダーに目をやる。

 私はポッケから赤いマーカーを取り出すと、12月の文字の隣に新しい数字を書き加えた。





  ――『96』。



 

 「っと——よし!今回もがんばろう!」

 


 誰もいない家を飛び出し、冬の青空の下を駆け出す。

 



 私――江戸むらさき の96回目の12月が始まった。



読んでいただきましてありがとうございました!


次回は6月25日 夜18時頃に投稿致します!



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