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精霊と狩人の詩  作者: アルマ次郎
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狩人と精霊の休日

凍えるような寒さに目がさめる。糸で縫ったかのようにくっついた重たいまぶたをなんとかこじ開けて壁にかかっている古い柱時計を見る。カチカチと音を立てて時を刻む古時計の黒い短針は六の数字を指していた。


休息日なのにこんなに早く起きるとは。俺ももうじじいなのか?いや、まだ19歳だ。筋肉痛は次の日にくるしまだ、大丈夫なはずだ。


布団から出たくない欲求に抗い一気にベッドから上半身を起こす。体にかかっていた分厚い毛布にくるまると毛布から顔だけを出す。モンスターみたいである。


「おはようザック」


「おはようアリエス」


アリエスに挨拶を済ませてリビングに向かう。


リビングにあるレンガの暖炉に目をやる。どうやら夜中に消えてしまったらしい。火かき棒で灰をかき出し横に積まれたザックのうでの太さほどの薪を暖炉に放り込む。


ザックは魔術で火を生み出し薪に火を灯す。魔石で発熱するストーブなんてものもあるがザックは暖炉の方が趣があって好きである。特に薪がパチパチと燃えていく音は心に安らぎを与えてくれる。


腹が元気な声で鳴く。寒さと空腹を天秤にかける。リビングから毛布を脱ぎ捨ててキッチンへと向かう。空腹が勝ったようだ。


ザックは外食を食べることはあまりしない。狩人には料理の技術も必要だと考えるので、なるべく自炊するようにしているのである。


綺麗に手入れされたコンロに火をつけフライパンを置く。そして油を一回り垂らして薄く切ったベーコンを3枚のせる。その横で、鍋に入った昨日の残りの野菜、肉を煮込んで作ったスープを温める。ベーコンの焼け具合を確認し卵を片手で割るとフライパンに中に落とす。フライパンに蓋をして、待つとキッチンにスープのいい匂いが充満してくる。フライパンの中身を確認して火を止め、白い皿に盛り付ける。腹はまだかまだかとうなり声をあげる。


今日の朝食はパンとスープ、そしてカリカリのベーコンの上に乗った目玉焼きである。


ザックは朝食をしっかりと食べる派なので、パン4つにスープ二杯をおかわりした。


朝食を食べ終わったザックは着替えて外套を纏い、街まで出かける。


狩人が一回の狩をするのにかかる準備は約2日だ。ランプ、罠に毒餌に装備の点検、銃弾の補充に携帯食料など必要なものはいくらでもある。安全な狩りをしようとしたらお金がかかるのは当然のことなのだ。


だが狩人で高ランクに属するものはかなりの高収入である。高品質の魔石は誰もが欲しがるし、貴族お抱えの狩人なんて者もいる。だが収入が高い分、命の危険も大幅に上がる。実際にザックも何度か瀕死の状態に追い込まれた事がある。狩人の多くは貯金をしない。派手に稼いで派手に使う。天国での金は天国で狩りをして稼げと言う言葉がある。狩人に明日はあるかわからないから贅沢は出来るだけするべきということである。そういう点で見ればザックはせっせと貯金する珍しい部類に入るだろう。


街の通りに出ると登った朝日がザックの目をくらませる。ほんのりと暖かさを感じるが強く吹く風に頬は冷まされる。


数分歩くと目的の場所へと到着する。レンガの外壁に木造の枠組み。入り口の上にはくすんだ色のウィンチェスターライフルのマークが描かれた看板が掲げられている。


ザックは木製の扉をノックし、返事も待たずに開ける。


立て付けの悪い扉がギィッと音を立てて開き、中から吹き出す暖かい空気がザックを包む。冷え切った体を出迎える暖気にザックは心地よさを感じた。


「おい、まだ開店前って…なんだザックか」


低い声がカウンターの奥から聞こえ、その声にザックは答える。


「おはよう、スミス」


店の奥から出てきたのはがっしり筋肉のついた坊主頭の男だった。厚いエプロンを身につけている姿は一目で誰が見ても職人だとわかるだろう。


「いや、おはようじゃねぇよ。来るの早すぎだ、バカ。…で、またぶっ壊したのか?」


ザックは左脇のホルスターからリボルバーを抜き取るとテーブルの上に置く。ザックのリボルバーを一目見るとスミスはため息をついた。


「ったく、おめぇは毎回毎回、どうやったらこんな風にぶっ壊すんだよ。魔弾を使っても普通はこうはなんねぇぞ?あぁ?」


「……それは…企業秘密だ。」


「おうおう、毎回直される俺の身にもなれよな」


「…金は払ってるだろ、毎回仕事を持ってくるなんて上客じゃないか。」


「クソ、金払いはいいから文句は言えねぇのが辛いところだな。」


「どれくらいかかる?」


スミスはリボルバーを手に持ち目を凝らして色々な角度から確認する。


「んー、だいたい3日ってとこだな。」


「わかった。じゃあ、また来るな」


「あぁ、待ってろザック、良いもんに仕上げてやるよ」


スミスの店で用事をすませるとザックは寒い外に出るのを少しためらいつつも意を決して入り口の扉を開けた。冷気がザックの顔を直撃し、体が外に出る事を拒絶する。


「…わりぃ、スミス…ちょっとここに居座るわ」


「いや、帰れよ。」


「んなこと言うなよ、俺とお前の仲だろ」


結局ザックは太陽が真上に登るまでザックの店に居座った。




昼過ぎに狩に必要な道具を修理、買い出しを行い自宅に帰ってきたときには、夕日がザックを照らし出していた。


「いやー寒すぎて死にそうよ。手足が凍ってしまうわ。」


アリエスは声を震わせながら言う。


「いや、お前に手足なんてねぇだろ。」


「いい?ザック。精霊にはね、ちゃんと体はあるのよ。でも実体化出来るのは高位の精霊くらいだわ」


「ふーん、じゃあアリエスは低位なんだな。」


「私は疲れるから実体化しないだけよ!」


「はいはい。さいですか。」


こうしてザックは忙しい一日を終えたのだった。十分な休息を取らぬまま。



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