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精霊と狩人の詩  作者: アルマ次郎
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狩人と少女

それは昼下がりのことだった。ザックはとある料理屋の木の椅子に座り、今か今かと子供のように料理を待っていた。ザックが待っているのは一杯のシチューである。


だが、この一杯を求めて人は列をなすのだ。ザックもそのうちの一人であり長時間並んでやっとの思いで席まで辿り着くことが出来た。


そしてザックの前に濃厚な香りに包まれたシチューが置かれた。


その匂いだけで腹の獣が暴れまわる。


おそるおそる銀色のスプーンですくう。


ザックはシチューを口にした瞬間、別の世界を見た。


口を半開きにし、あほヅラを晒すザックを見てアリエスはケタケタと笑う。


だがザックはそんなことなど気にはしなかった。


数分後、平常心に戻ったザックは勢いよくシチューを口へと何度も運んだ。


腹を満たし、満足気なザックの前に1人の少女が足を止めた。


ブロンドの髪に日焼けなど知らないかのような白い肌。年齢は13くらいだろう。


「ザックさんですね。」


少女はザックに尋ねる。


「んあ?なんだ依頼か?」


ザックの元にはたまに狩の依頼が指名で入ってくる。なんとなくだが目の前の少女がただ者ではないことを直感で感じ取ったのである。


「そうです。ですが依頼主は明かすことが出来ません。」


「訳ありかよ…。引き受けるかは依頼内容を聞いてからにするからな。」


「わかりました。ではこちらをどうぞ。」


そういうと、少女は一枚の紙を肩にかけていたカバンから取り出した。


「えぇーっと…っまじかよ!」


書かれていた魔獣の対象はプラウドパンサーと呼ばれる黒色の豹だった。ザックにとっては容易いだろう。狩るのであればの話だが。


今回の依頼はプラウドパンサーの捕獲であった。


「…まぁ、引き受けよう」


捕獲は高難易度だが報酬の高さがザックの心を魅了したのである。依頼書にはギルドを通した証として偽造不可能な判子が押されており報酬が確実に支払われることが分かる。


報酬2000万ギル。普段のザックの一回の狩の利益が270万ギルくらいであり、その高さがわかるだろう。


「ありがとうございます。詳しい内容は後ほど相談しますので。」


「あぁ、わかった。そういえば名前を聞いてなかったったな。あんたの名前は?」


「私ですか?私はルーと言います。よろしくお願いします。」


アリスはぺこりと頭を下げる。


「ザックだ。こちらこそよろしく頼む。」





2日後、ザックはプラウドパンサーの捕獲のために草木が生い茂る、広大な森林の中を歩いていた。


「で、なんであんたがいるんだ?」


大きい荷物をせっせと運ぶザックの後ろを小さい赤いカバン肩にかけたルーが付いてきている。


「せっかくなのですから私も来ちゃいました!」


「遠足じゃねーんだぞ!まったく。危なくなったらあんたの命を最優先で助けるからな?」


「大丈夫ですよ。危なくなるなんてことはなかなかないですから。」


ルーは胸を張って自信ありげにザックに笑顔を見せた。ザックは陽気な考えのルーに向かってため息を吐く。


なんて能天気なのだろう…


すると突然アリエスがザックに向かって叫んだ。


「ザック!近くに魔獣が複数いるわ!気をつけて!」


「魔獣だ!ルー!俺の後ろに隠れてろ。」


ザックはカバンを下ろし、ルーの前に立ち、警戒を強める。


すると大きな茂みの奥からそれは現れた。姿を見せたのは灰色の熊だった。だが、普通の熊ではない。体長は4メートルほどだが筋肉の塊と言ってもいいだろうその体躯にザックは唖然とする。こんなところにいるような獣ではないのは見て取れた。


「ザックさんファイトです!」


ザックの焦りを知らずか、ルーは親指を立てて、明るい声でザックに声援を送る。


熊は荒い息を立てザックの様子をうかがっていたが突如、ドンと熊が大地を蹴り、ザックに向かって突進を仕掛ける。壁のような威圧感に圧倒されるがザックはなんとか体を動かす。


もしこの突進を生身の体でまともに食らえば全身の骨を砕かれるだろう。


ザックは咄嗟にルーを左脇に抱えて、左のポケットから紅い水晶を取り出す。


水晶を持った手に力を込めるとあっけなく砕け散り、赤い粒子がザックの体を包んだ。


ザックは、軽く跳躍すると熊の頭上の高さを軽々こえ、熊の突進を回避する。


空中で熊が自分の真下を通過する瞬間、ホルスターからリボルバーを取り出し、引き金を引く。


ズドンと脳天にぶち込まれた弾丸は熊の頭の中身をぶちまけ赤い花を咲かせた。


頭部を失った熊は、突進の勢いのまま、人の腰の4人分はあるであろう太さの大木をへし折った。


だが、ザックの目の前で不思議なことが起こる。飛び散った熊の頭部がまるで生きているかのように熊の胴体へと集まったのである。


やがてそれは熊の頭部を形作り、何もなかったかのように元に戻った。


いや、元には戻っていない。熊の色が変わっているのだ。熊の毛色は灰色からどす黒い色へと変化していた。


熊は口を大きく開け凶悪な牙を見せる。そして咆哮を上げた。すると先程、魔術で強化した体がずしりと重くなる。


「ザック!魔術がかき消されたわ!」


アリエスは焦ったように声を荒げる。


熊は先程より強く速く地面を蹴り、覆いかぶさるようにザックの目の前まで飛んで来た。そして丸太のような右腕でザックを引き裂こうとする。


「クソ!」


左脇に抱えていたルーをかばうように咄嗟に右半身を向ける。


だがそこでそれは起こった。


気がつけばルーがザックの前におり右足で熊の体を受け止めていたのだ。


ルーはそのまま右足で熊の巨体を打ち上げ、回し蹴りでかかとを体に叩き込み後方にぶっ飛ばした。


「は?」


「ね?なかなか危険なことにはならないでしょう?」


「いやいやいや、おかしいだろう!」


ルーの力がザックを上回っているのは明白だった。


「さ、トドメです。」


熊はいつのまにかルーの前まで移動していたが、ルーは空中で綺麗に一回転をして熊の頭頂部にまたかかとを叩き込んだ。だが先程に比べて重たい一撃は熊の頭部を地面にめり込ませた。


「再生はしないのか?」


「あぁ、大丈夫です。手は打ちましたから。」


笑顔で答えるルーを見てザックの全身が汗で濡れた。








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